研究活動紹介
「スマホ育児」の効果と課題
名前 | 佐藤 和順(教育学部 幼児教育学科) |
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科研費種別 | 電気通信普及財団 |
研究課題 | スマホを用いた「孤育て」解消に関する研究 |
研究期間 | 2022年度 |
研究目的
本研究は、子育て世代に最も身近な情報通信機器であるスマホを用いた子育て(「スマホ育児」)の現状把握を行うことが目的である。また、スマホを用いることにより、育児のストレス等の解消が可能であるのかを検証すること通して、「スマホ育児」の効果・可能性及び課題等に言及する。
研究内容
具体的な研究調査としては、全国の小学校就学前の乳幼児をもつ母親1,000人を対象にしたwebを利用した質問紙調査を実施。
質問項目の、主要なものは以下のとおりである。
- 母親の基本属性及びスマホ、ネットやアプリの利用実態の把握
- 乳幼児に触れさせている情報機器、ネットやアプリの利用実態の把握
- 育児におけるスマホの活用と課題
- 母親における育児ストレスの現実とスマホとの関係調査
研究成果
「スマホ育児」の現状
子どもに見せたり使わせたりしている情報機器については、表1のとおりである。よく利用しているサイトやアプリについては、表2のとおりである。どのような場面で「スマホ育児」をするのかについては、表3のとおりである。
65%の母親が何らかの形で「スマホ育児」を行っていて、自宅での遊び時間や電車やバスなどの公共の場、外食時等とその使用場面も多岐にわたっていることが明らかとなった。
「スマホ育児」と育児ストレスの関係性
「スマホ育児」と育児ストレスの関係について検討を行った。母親が抱える育児ストレス測定については、荒木ら(荒木、兼松、横沢、荒屋敷、相墨&藤島、2005)により開発された、育児ストレスショートフォーム日本版Parenting Stress Indexを採用し、対象者の負荷に鑑み、原版全19項目のうち、子どもの特徴に関するストレスから3項目、親自身に関するストレスから3項目の合計6項目を一部文言の修正をし、採用した。回答は「まったく違う」「違う」「どちらともいえない」「そのとおり」「まったくそのとおり」の5件法を採用した。全6項目を合算した育児ストレス得点を算出し(得点が高いほど育児ストレスが高い)、「スマホ育児」の利用の有無別にt検定を行った結果は表4のとおりである。すべての項目において、「スマホ育児」の利用あり母親の育児ストレス得点が、「スマホ育児」利用なしの母親を上回っており、0.1%水準で有意差が認められた。育児の負担感、育児の不安感についても同様の傾向が把握された。併せて、育児ストレスを抱えていないことが、子どもに情報機器を見せない・使わせない方針と関連する結果も得ることができた。これらの結果から「スマホ育児」を行っている母親は、非利用の母親と比較して、育児ストレスが高いといえる。スマホは子どもにとって依存等を引き起こす可能性を有してはいるが、日々の育児ストレスを抱える母親にとっては、その育児の負担を軽減しうる機器として活用されている可能性があることがわかった。
おわりに
「スマホ育児」が、広く浸透している現状が明らかとなった。一般的には、「スマホ育児」が常態化すると、保護者と子どものコミュニケーション時間が減少する、また、子どもの視力や体力低下をまねくのではないかという否定的な意見・研究が多を占める傾向にある。また本研究においても、有害サイト・アプリの利用・閲覧等の不安、親の承諾なしに、オンラインショップやアプリで買い物や課金をする等の不安や心配があることも明らかとなっている。
一方で、「スマホ育児」が母親の育児ストレスを軽減しているという傾向も把握された。今後は、継続的に調査研究を行い「スマホ育児」の効果と課題を明確化して、「スマホ育児はダメ」と漠然と否定的に捉えるのではなく、保護者に効果と課題を示し、保護者が使用を判断できる機会を提供することが必要である。
研究者紹介
佐藤 和順(教育学部 幼児教育学科)
専門分野
幼児教育・保育
科学研究費採択
- 基盤研究C 外国籍の子どもと保育者をつなぐ日本語コミュニケーション支援教材の開発 2021-2024
- 基盤研究C 「孤育て」を解消する祖父母力醸成プログラムの開発 2017-2020
- 孤育てを解消するための祖父母力を活用するプログラムの開発 公益財団法人福武教育文化振興財団 2017-2018
- 保護者のワーク・ライフ・バランスに着目した「孤育て」から「個育て」への移行のための子育て支援プラグラムの構築 公益財団法人福武教育文化振興財団 2016-2017
- 基盤研究C 保育施設を拠点とした父親の育児参画支援プロジェクトの構築 2014-2017
- 基盤研究C 保育者のワーク・ライフ・バランスが『学びの基礎力』醸成に与える影響 2012-2014
- 若手研究(スタートアップ)『協同的な学び』を通した子ども期にふさわしい男女協同参画社会意識の芽生え 2006-2007
最近の業績
- 子育て家庭と地域をつなぐ祖父母参加型子育て支援に関する検討、教育学部論集33号、pp.115-124、2022年3月
- 子どもの非認知的能力を醸成する家庭要因に関する一考察-「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」と保護者の主観的評価を手がかりとして-、人権教育研究21巻、pp.111-123、2021年11月
- 保育者の働き方に関する一考察-語りから顕在化する困難感-、教育学研究紀要66巻、pp.310-315、2021年3月
- 保育者の専門性に関する一考察-遊びを通した総合的な指導力の養成に着目して-教育学研究紀要66巻、pp.316-321、2021年3月
- 子どもの価値観・態度形成に影響を有する家庭環境要因に関する一考察-保護者の夫婦関係満足度、生活に着目して-、家庭教育研究24号、pp.1-15、2019年3月
その他業績
出版物
『保育者の働き方改革 働きやすい職場づくりの実践事例集』
(2021)出版物
『知のゆりかご 子どもの姿からはじめる領域・人間関係』
(2022)出版物
『MINERVA はじめて学ぶ保育2 教育原理』
(2020)出版物
『保育学用語辞典』
(2019)出版物
『知のゆりかご 教育・保育カリキュラム論』
(2019)出版物
『改訂 保育職論』
(2019)出版物
『保育者のワーク・ライフ・バランスー現状とその課題ー』
(2014)出版物
『男女共同参画意識の芽生えー保育者から子どもへの再生産ー』
(2010)