学術賞・学術奨励賞

学術賞

学術賞は、佛教大学有縁の研究者で、個々の学術研究をとおして、顕著な業績をあげた者に対し、その功績を讃え表彰するものです。

2023年度

重畳たるタクティックス:日中戦争期の話劇をめぐって

著/楊 韜
2022年1月刊
汲古書院

本書は日中戦争期の話劇に関する研究書である。戦時下における複雑かつ流動的な話劇の諸相の関連性を可視化するため、「重畳たる戦術」という新たな視座を導入して「政治的時空間の重畳」・「人的移動・転身による重畳」・「歴史と現実の重畳」という3つの角度から論を展開する。話劇人の生態縮図と活動、移動演劇隊の実態と表象、中央青年劇社のネットワークと上演作品、戦時下の歴史話劇の特徴、反戦日本人による抗戦話劇運動など、様々な事象を取り上げている。

Development of the START Program for Academic Readiness and Its Impact on Behavioral Self-regulation in Japanese Kindergarteners

著/松村 京子
2021年5月刊
Early Childhood Education Journal 50

セルフレギュレーション(自己制御)が子どもの学力と対人関係に関与していることは多くの研究から明らかになっている。そこで、その能力を促進するために、Social Thinking and Academic Readiness Training (START)プログラムを開発した。プログラムを実施した実験群と実施していない群で、5歳児のセルフレギュレーション能力と、教師の指示への応答性を測定し、比較した。その結果、実験群のそれらの能力が向上した。さらに、教師による評価から子どもの集中力、聞き取りの向上が報告された。

在宅ケアのための判断力トレーニング-訪問看護師の思考が見える

著/清水 奈穂美
2022年6月刊
医学書院

在宅ケアの現場では、療養者と家族が大切にしていることや療養者の暮らしを理解し、生き方そのものを支えることが必要とされています。その時、その場の状況に合った判断(最適解)を導くことは訪問看護の醍醐味です。
本書は、思考プロセスの基盤となる訪問看護師の判断を支える4つの力と最適解を導く意思決定の共有を具体的に解き明かしながら、判断力がトレーニングできるようになっています。

2022年度

きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?

著/長瀬 正子
2021年9月刊
ひだまり舎

あなたの気持ちは、権利がまもられているかをたしかめる、「目じるし」みたいなもの(本文より)。気もちを手がかりに、子どもの権利を学ぶワークブック型絵本。コロナ下を含めた非常事態であっても、子どもは本来どのように大切にされるべきかをそっと伝える作品。気持ちと権利がつながっているということ、自分たちにはこんな権利があったのかという気づきを、おとなも子どもも共有できる絵本です。

Loss of KAP3 decreases intercellular adhesion and impairs intracellular transport of laminin in signet ring cell carcinoma of the stomach

著/安居 幸一郎
2022年3月刊
Scientific Reports12

胃の印環細胞癌は、細胞間接着が喪失し、基底膜を持たないことを病理組織学的特徴とする。進行が早く、治療抵抗性で、最も予後不良なタイプの胃癌である。本論文は、胃印環細胞癌の発癌機序を解明するために京都府立医科大学と行った共同研究の成果である。細胞内の物質輸送を担うモータータンパク質キネシンを構成する分子KAP3の遺伝子発現が胃印環細胞癌で特異的に消失することを発見した。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術でKAP3遺伝子をノックアウトすると、RhoAを介した細胞間接着の形成が阻害され、基底膜の主要な構成成分であるラミニンの細胞内輸送が障害されることを明らかにした。

2021年度

校本 懐風藻

編著/土佐 朋子
2021年2月刊
新典社

本書は、天理大学附属天理図書館蔵(榊原忠次旧蔵)『懐風藻』を底本とし、参看可能な全ての伝本を対校本として作成した『懐風藻』の校本である。底本の忠実な翻刻と、要所要所における対校本の字形の忠実な再現とによって、本文系統の分岐点の考証に資することを目指した。また「諸本解題」を付し、伝本それぞれの性格や、伝本間の関係性を示した。先学の研究に導かれ、編著者自ら全国の伝本所蔵地をめぐって行なってきた『懐風藻』本文研究の成果をまとめた一冊である。

知的障害者家族の貧困 ―家族に依存するケア

著/田中 智子
2020年4月刊
法律文化社

日本における知的障害者家族の生活問題について、貧困という視点から検討を行なった。現在の制度では、多くの知的障害者の収入は最低生活を下回っている。そのような中で、実際にどのような暮らしをしているのか?家族への影響はどのようなものであるのか?家族はなぜ貧困状態から抜け出せないのか?ということを家計調査をもとに実証的に明らかにした。障害とケアと貧困の関連性について整理した。

Helpful resources recognized by adult children of parents with a mental illness in Japan (日本における精神疾患の親をもつ子どもが感じた支え)

著/田野中 恭子
2021年3月刊
Japan Journal of Nursing Science Volume 18, Issue 3

本論文は、精神疾患の親をもつ子どもが感じた支えを明らかにしたものである。当該の子ども10名へのインタビューデータを質的分析した結果、支えとして、情緒や生活支援、疾患・対応の理解、子どもとして過ごせる時間の確保等が明らかにされた。当該の子どもには、保健医療福祉職や学校教員による生活面を含めた課題把握と連携による支援、幼少期より精神疾患や対応に関する情報提供と理解促進支援、子どもの情緒・発達面の支援が求められる。そのために社会での精神疾患の理解も進める必要がある。

2020年度

シリーズ 学びを変える新しい学習評価(全5巻)

編集代表/田中 耕治
2020年1月刊
ぎょうせい

学習指導要領改訂を受けて、2019(平成31)年、新しい「指導要録」と学習評価の在り方が文部科学省から示された。この新しい学習評価は、新学習指導要領と同じく、【小学校:2020(令和2)年度、中学校:2021(令和3)年度】から実施される。
「シリーズ・学びを変える新しい学習評価」は、新しい評価の在り方・取り組み方を深く読み取り、授業づくりにつなげるための「解説+実践」書として満を持して刊行するものである。「評価と指導の理論・実践編」全3巻(小中学校共通)と、「指導要録・通知表の文例編」(小学校/中学校各1巻)全2巻の合計5巻で構成する。

2019年度

コメニウスの旅―<生ける印刷術>の四世紀

著/相馬 伸一
2018年8月刊
九州大学出版会

世界初の絵入り教科書『世界図絵』を著した17世紀チェコの思想家コメニウスは、「近代教育学の祖」と見なされている。しかし、彼には宗教者・哲学者・言語学者・民族主義者・政治行動者といった多様な側面がある。彼の限定されたイメージは、とくに啓蒙主義と民族主義が興隆した19世紀における言説によるところが大きい。
コメニウスは、人間がテクストの世界に生き、ある刻印をされると同時にその印象を表現する存在であり、刻印と表現が無限に続くプロセスを<生ける印刷術>と呼んだ。本書では、この歴史的な洞察を彼自身にあてはめて、四世紀にわたるコメニウスをめぐる言説の歴史を描こうとするメタヒストリーの試みである。日本、チェコ地域、ドイツの史料を駆使して彼のイメージを見直すことで、四世紀の時代相を照らし出す。
巻末には、コメニウス研究に役立つ情報も整理して掲載。日本では初収録のものを含む約130点の図版は、コメニウスのイメージの広がりを直観させてくれるだろう。

看護的思考の探求―「医療の不確実性」とプラグマティズム

著/吉浜 文洋
2018年11月刊
ゆみる出版

不確実性を抱え込んだ医療・看護の問題解決には、プラグマティストであるデューイ、パースの「探求」的なアプローチが必要である。この行為と思考の連続性を主張する仮説検証的な方法は、「看護過程」と呼ばれる看護領域の問題解決法、その他の臨床推論の基礎をなしている。ガイドラインやマニュアルに依拠した看護実践が主流となり、看護師の「臨床判断力」が議論されている現実がある。臨床で問題解決のために「考える」とはどういうことかを追求した看護実践の中の「思考」に焦点を当てた論考である。

学術賞受賞者一覧

学術奨励賞

学術奨励賞は、佛教大学大学院に在学する者・修了者および満期退学者で、顕著な業績をあげた者に対し、その功績を讃え表彰するものです。

2023年度

入百姓世話方としての真宗僧侶-常陸国谷田部藩領を主な事例として-

著/井上 幸子
2022年9月刊
「鷹陵史学」第48号

本稿では、近世後期に北陸から北関東に来村した入百姓に関与する即乗という真宗僧侶の役割を検討し、彼は自ら荒地起返をする農業経営者であったこと、入百姓の動員能力を有していたこと、かつ宗教面での活発な活動は認められないことを示した。以上の知見は、入百姓の導入と成功の要因を真宗門徒の敬虔な信仰心に帰す従来の見解に見直しを迫るもので、真宗僧侶に率いられた入百姓を荒地の再開発者集団として理解する必要性を提起する。

近現代日本とエホバの証人-その歴史的展開-

著/山口 瑞穂
2022年4月刊
法藏館

本書は、米国発祥のキリスト教系新宗教に分類されるエホバの証人の日本における歴史展開を、世界本部の圧倒的な影響力とラディカルな終末論に着目し、検討したものである。1970年代半ばから1990年代半ばまでの日本支部では、極めて多くの時間が布教活動(戸別訪問)に費やされ、最大で22万人の信者を擁するまで伸張した一方、その後の教勢の停滞には、潜在的な離脱者の顕在化という側面もあることが明らかにされている。

医療生協の事業と運動に関する研究-「地域共生社会」への対抗軸としての「人権・協同・共同化」-

著/岸本 貴士
2023年2月刊
佛教大学研究叢書(旬報社)

本書は、生活協同組合(生協)、特に医療や介護を事業として行う生協である医療生協について、その組織的特徴や歴史的変遷を振り返りながら、地域包括ケアシステム・地域共生社会の実現に資する役割を検討したものである。本研究から、今日の新自由主義的社会体制における「人間らしいくらし」の保障に向けて、「人権・協同・共同化」の視座をもつ「医療生協の事業と運動」という対抗軸が、その一翼を担いうることを示すものとなっている。

2022年度

言葉による見方・考え方を働かせた話し合い活動の可視化と集合知の形成について-俳句の相互鑑賞における生徒発言の分析を通して-

著/國原 信太郎
2021年7月刊
『京都教育大学国文学会誌』第49号

本研究では,俳句の協働鑑賞という言語活動をとりあげ,そこで生じた発話を質的に分析することで,学習者が「言葉による見方・考え方」をどのように働かせて,作品の読みを深めているのか探った。そして,「言葉による見方・考え方」が働くような場面では,どのような学びが生じ,そこでは学習者の資質・能力がどのように形成されているのかということを具体的に明らかにした。また,その分析結果から「言葉による見方・考え方」を働かせる言語活動の手段のひとつとして,俳句の協働鑑賞が有効であることを示した。

『吉田久一とその時代-仏教史と社会事業史の探求-』(共著)

共著/宮城 直子
2021年3月刊
法藏館

敗戦後、米国施政下の沖縄から社会福祉を専攻して日本本土へ渡り、帰郷後、郷里の戦後復興に奔走したかつての沖縄留学生たちは、2004年、『日本社会事業大学と沖縄の社会福祉--会員個人史その一』を編集している。吉田久一も、その時々に沖縄の教え子らと手紙を交わしつつ、とりわけ沖縄留学生との関わりを通じて「沖縄」を書き綴っていた。本稿は、各所に残るこれらの「ミクロな解像」を基に画かれる、吉田久一と沖縄留学生をめぐるミクロストリアである。微視の目を通して見えてくる吉田と沖縄留学生の交流の背景を読み解き、沖縄留学生の内面に何がもたらされたのかについて迫る。

2021年度

日本人作家とノーベル文学賞 ―スウェーデンアカデミー所蔵の選考資料(1958~1969)をめぐって―

著/大木 ひさよ
2020年11月刊
「京都語文」第28号

本研究は、ノーベル文学賞に日本人作家が選考の視野に入った1958年から、日本人初の受賞者となった川端康成が受賞した1968年度、およびその翌年1969年度までの、スウェーデンアカデミー所蔵のアーカイブ資料(スウェーデン語)を、稿者(大木)が日本語に訳して紹介したものである。同時に、それらを日本文学研究の視点から考察しながらそのアーカイブ資料(日本語)へ注釈を付け、川端康成受賞に至るプロセスおよびその後の経緯を明らかにした。本文

流行神 ―民間信仰におけるハヤリ・スタリとそのメカニズム―

著/村田 典生
2021年3月刊
佛教大学研究叢書(法蔵館)

本書は、近世から近現代に顕現した流行神に焦点を当て、とりわけその顕現したプロセスを寺社、地域、参拝者、歴史との関連を中心に検討し、その時代に生きる人々の切なる願いを民間信仰の側面から考察したものである。あわせて文化年間と昭和に書かれた三種類の「願懸重宝記」の分析や明治の神仏分離などを事例として民間信仰の盛衰の分岐点についても言及した。

近代神道史のなかの「神道私見論争」 ―国民的「神道」論の出現―

著/渡 勇輝
2020年9月刊
「日本思想史学」第52号

本論文は、大正7年(1918)に柳田国男と河野省三のあいだで起こった「神道私見論争」に対して、近代神道史の文脈から新たな位置づけを行ったものである。これまで、この論争は柳田民俗学の形成史のなかで理解されてきたが、あらためて近代神道史という視角から分析することで、「神道」言説が大正期に「国民生活」と結びついていく様相を明らかにし、論争の対立が、両者のとらえようとした「国民」像の差異であったことを指摘した。本文

2020年度

『伊曾保物語』の成立についての再考察

著/濵田 幸子
2020年3月刊
「佛教大学総合研究所紀要」第27号

16世紀後半、キリスト教布教・伝道を目的に来日した宣教師によって伝えられ、日本語に翻訳された「イソップ寓話」には国字文語体の『伊曾保物語』とローマ字口語体の『イソポのハブラス』がある。この二書と、原典であるシュタインヘーベル本『イソップ』を読み比べることによって、『伊曾保物語』の性格や特徴を明らかにしていくと、『伊曾保物語』が「賢人イソポの一代記」として再編集されていることが見えてくる。本文

織田作之助におけるメタフィクションの原点 ―デビュー作品、小説「ひとりすまふ」論―

著/北野 元生
2018年11月刊
「京都語文」第26号

本作品(1938年初出)は療養目的で温泉に滞在している旧制高等学校生が出会った一組の男女から心理的に翻弄される「ぼく」と称する生徒の一人称語りで語られる回想文からなっている。ところが、「わたし」と称するこの小説の作者が作品の中に登場して、ついには、「ぼく」と「わたし」が作品中で論戦を展開するに至るのである。この卓越したメタフィクションの手法を日本の小説界がわが物にしていたことは驚きである。本文

2019年度

『サウンダラナンダ』16.30-33にみる二つの系統

著/田中 裕成
2019年3月刊
「印度學佛教學研究」第67巻第2号

『サウンダラナンダ』はネパール写本と中央アジア写本の間に異読が存在する。筆者は異読箇所が『禅法要解』中に散文で組み込まれていることを発見した。そこで本稿ではその発見に基づいて、ネパール中央、中央アジア写本、『禅法要解』の異読を検討した。その結果、中央アジア写本と『禅法要解』は原意を保っているが、ネパール写本では経部的な記述が毘婆沙師の宗義に適うように改変されている可能性を指摘し、著者性のあるテキストであっても思想的立場に基づいて改変される可能性を明らかにした。本文

韓国における障害者貧困層の世帯構造による貧困状態の分析 ―韓国福祉パネルを用いて―

著/孔 栄鍾
2019年3月刊
「関西社会福祉研究」第5号

本研究では、韓国福祉パネルを用いて障害者貧困層の貧困状態を分析し、その世帯構造的な特徴を明らかにした。分析指標としてはFGT指標を採用し、「貧困の深さ」(貧困ギャップ)と「貧困のばらつき」(2乗貧困ギャップ)といった貧困状態の計測を試みた。分析結果、非障害者世帯に比べ障害者世帯の貧困状態がより深刻であり、徐々に悪化している傾向が確認できた。中でも単身世帯の貧困状態が深刻であり、とくに女性・高齢・精神的障害・軽度障害であるほど劣悪な貧困状態に置かれていることが分かった。

学術奨励賞受賞者一覧

  • ぶったんWEB
  • 図書館
  • オープンラーニングセンター
  • 宗教文化ミュージアム
  • 佛教大学入試情報サイト
  • 佛教大学通信教育課程
  • 研究活動報manako
  • オリジナルグッズ販売中