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女性における尿失禁に関する研究

名前 田尻 后子(保健医療技術学部 看護学科)
科研費種別 基盤研究C
研究課題 中高年女性における尿失禁に関する介入研究:ランダム化比較試験/女性の尿失禁における運動療法に関する介入研究
研究期間 2012-2015/2016-2018

研究目的

尿失禁は日本女性の30~40%に認め、40歳を越えると半数近くに症状がみられる。その治療には骨盤底筋群体操(Kegel体操:肛門を引き締める体操)が多く実施されている。しかし、その効果は50%~70%であり、長期的効果については未だ検討されていない。しかも尿失禁は身体面のみでなく心理面においても影響する疾患であり、女性のQOL(生活の質)に深刻な影響を及ぼす要因である。

近年、骨盤底筋群に対しての研究が進み、骨盤底筋群、腹横筋、多裂筋、横隔膜はインナーユニット(図1)として体幹部の安定性に関与しており、尿失禁や腰痛症などのアプロー チとしても積極的に用いられている。また筋厚の増加と筋活動性に強い相関があり、インナーマッスル(インナーユニットの筋肉群)である腹横筋の筋厚を超音波で測定することは骨盤底筋群の客観的な評価方法のひとつでもある。

以上のことから、女性の尿失禁を改善するための試みとして 骨盤底筋群のみならずインナーマッスルである腹横筋(厚)に 着目し、骨盤底筋群体操に腹横筋と骨盤底筋群の2つ筋肉を同時収縮することで筋活動性を高め、より効果的な体操方法を見出すことである。また、心理面にも着目し尿失禁が及ぼす日常生活の影響や体操を継続的に実施することへの思いを明らかにする。


図1 インナーユニット

①骨盤底筋群と腹横筋を用いた体操効果について

目的

尿失禁のある女性において骨盤底筋群と腹横筋の同時収縮時の体操効果を明らかすること。

方法

研究協力者は中高年女性15名。尿失禁状況及び属性に関するアンケートを実施し、過去1ヵ月以内に1回以上の腹圧性尿失禁を自覚した者のうち、体操を実施した者を介入群、体操をしなかった者をコントロール群に分けて検討した。介入方法は、腹横筋と骨盤底筋群の同時収縮動作(3秒/回、20回/セット、1-2セット/日、4-6セット/週)を8週間実施した。体操時の体位は背臥位、膝屈曲90°(図2)。指導時にL4 ~ L5にスタビライザーを置き、実施者自身が 動きを客観視できるようにした。評価について、腹横筋厚の測定肢位は体操時と同様、腹横筋厚測定は肋骨縁と腸骨稜の中央にプローブを平行に置き、そのプローブの中央が右前腋窩線上にくるように呼気終期に合わせ超音波装置(SonoSite 180 PLUS、Bモード、5MHzリニア プローブ)を用い測定した(図3)。測定の動作課題は①安静背臥位、②腹部を凹ませる(腹横筋の最大収縮)③肛門を締める(骨盤底筋群の最大収縮)④腹部を凹ませ肛門を締める(腹横筋と骨盤底筋群の同時最大収縮)であった。


図2 体操時の体位スタビライザー使用

結果

統計解析はSPSS12.0を用い危険率は5%未満を有意とした。両群の属性について有意差はなかった(表1)。また、両筋同時最大収縮時腹横筋厚は、介入前に比べ8週間後では腹 横筋厚の増大を認めたが、それ以外のすべての動作において介入前後に差が認められなかった(表2)。

すなわち、骨盤底筋群と腹横筋の両筋同時収縮する体操のみに効果は認められた。また、尿失禁の状況について介入群は、介入4週間後に5名、8週間後に8名に尿失禁症状が消失した。 しかし、コントロール群では変化がみられなかった。

②尿失禁の状況・思い・行動に関するインタビュー調査

目的

女性の尿失禁を改善するための試みとして、尿失禁を経験した者の心理面に着目し、 尿失禁が及ぼす影響、尿失禁の思いや対処方法を明らかにすること。さらに骨盤底筋群体操 (以下運動療法)の継続困難な要因を探り今後の支援のために示唆を得ることである。

方法

研究協力者は、過去に尿失禁を経験した自立生活をしている中高年女性11名。質的記述的研究として半構成面接(尿失禁の状況、思い、行動)を実施した。分析方法は、インタビュー内容を逐語録にまとめ、文脈を重視しながら精読し面接内容を①尿失禁を経験した状況、②その時の思い(捉え方・認識)と対処方法、③尿失禁を経験した時の行動、に分け、共同 研究者と同じ意味や関連する言葉を集めカテゴリー化し、インタビュー内容を振り返りながら分析を重ねた。

結果

協力者の平均年齢60.2±4.2歳、平均面接時間は21.3±6.9分。①経験した状況として、 出産後、または閉経前後に経験しており、「くしゃみ」「咳」「尿意を我慢」などの骨盤底筋群の低下によるものと「環境」「気候」「ストレス」などの自律神経系の影響によるものがあった。②思いとして「老化症状の1つ」であるから「仕方がない」と考えていた。「いつまでも続かないだろう」「重大な病気ではないから」「恥ずかしくて相談できない」と消極的対処として捉えてい た。一方「自分のできる事をしよう」「何か対応が必要」と積極的に行動しようとする考えもあった。③行動として、「ナプキンを当てる」「おりものシートを使う」「失禁用パンツをはく」と失禁の汚染に対応するものと「原因を探るために本・雑誌を読む」「肛門を締める」と尿失禁を改善しようとする行動であった。運動療法については「運動の方法が分からない」「正しく出来ているか分からない」と捉えていた。また、運動療法を実施するために「実施時間を決めることで習慣化」「実施したことを可視化」「実施方法の具体化」などがあった。以上から中高年女性の尿失禁について「老化のよるものであり仕方がない」と受け止めており、それに対しては衛生材料の進歩により殆どが抵抗なくパッドを使用していたことが分かった。一方で改善しようとする思いもあり、具体的な運動療法の支援を高める活動が必要であった(図4)。

*両研究においては倫理員会の承認を受け、倫理的配慮した上で実施

研究者紹介

田尻 后子(保健医療技術学部 看護学科)

専門分野

看護学 母性看護 ウイメンズヘルス分野 (生涯発達看護学)

科学研究費採択

科学研究費採択 研究代表者 基盤研究C (24593521)/科学研究費採択 研究代表者 基盤研究C (16K12123)

最近の業績

  • 健常中高年女性の尿失禁の対処に関するインタビュー調査 The 3rd International Meeting of Asian Rehabilitation Science in Beijing (24th March 2018)
  • Measurement the thickness of the transverse abdominal muscle in different tasks J.Pher.Sci 29(3) 2017.3 pp201-211
  • Effects of Co-contraction of Both Transverse Abdominal Muscle and Pelvic Floor Muscle Exercises for Stress Urinary Incontinence*A Randomized Controlled Trial J.Pher.Sci 26(8)2014.8 pp1161-1163

その他業績

実践に生かす看護理論(久美出版)

刊行物

実践に生かす看護理論(久美出版)
2015年3月

女性のための尿もれケア
インナーマッスルエクササイズ

パンフレット

女性のための尿もれケア
インナーマッスルエクササイズ
2015年作成

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