研究活動紹介
教師はどのような戦略を立てて授業に臨んでいるか
名前 | 山口 孝治(教育学部 教育学科) |
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科研費種別 | 基盤研究C |
研究課題 | 介入参画的アプローチによる若年教師の力量形成に関する実証的研究 |
研究期間 | 2016-2019 |
研究目的
本研究の目的は、若年教師(採用1年~5年程度)を対象に、優れた体育授 業実践を可能にする彼らの実践的力量形成の過程を実践的思考様式の視点 から分析し、その内実を実証することである。またこれらの成果のもとに、教 師教育場面への具体的な活用方法についても検証する。研究の段階的・具体的目的は、実践的思考様式の実際的発揮としての教授戦略(表1)を基軸に、 1)被験教師(若年教師)の実践的知識と教授戦略との関係性の解明、2)被験教師(若年教師)の実態に応じた実践的知識への介入プランの構築及び蓄積、3)実践的知識の介入による被験教師(若年教師)の教授戦略の変容の検討、4)優れた体育授業の創造を企図する教授戦略の教員養成・教師教育研究への応用である。
研究内容
平成28年度は被験教師の教授戦略の発揮の実態を彼らの有する実践的知識との関係から明らかにする。平成29年度から3年間は、被験教師の実態に応じて実践的知識への介入プランを構築し、実践的知識への介入による教授戦略の変容及び児童の学習成果(態度得点や技能)への効果について、継続的な働きかけ(介入参画)による経年的変化を検証する。具体的な方法について、 1)被験教師には、秋期に一単元の授業実践を依頼する。このときの単元設定は任意とする。2)実践までに、実践予定教材の「運動の構造的(技術的)知識」 と指導プログラムの提示・解説を行い、その前後に「展開型表現様式」(山口ら, 2010)の記述を依頼する。3)指導プログラムの作成を依頼し(指導時間は任意)、単元序盤・中盤・終盤の3単位時間分の授業収録を行う。併せて、「出来事」調査票(厚東ら,2004)への記述を依頼する。4)児童の学習成果を測定す るために「態度測定」(小林,1978)を実施する。5)介入プランの適用による各被験教師の教授戦略発揮の実態を明らかにする。6)「展開型表現様式」の記 述内容を軸に、授業設計段階の実践的知識の変容と教授戦略との関係性を検 討する。これらの作業を3年間継続する。これにより、実践的知識の向上が被 験教師の教授戦略にどのような影響を及ぼすのかを経年的変化から検証する。併せて、本研究で構築した介入プランの検証を行う。
研究結果
2年次を終えての結果について述べる。図1は被験教師(5年生担任)の単元 序盤(2時間目) - 中盤(5時間目) - 終盤(8時間目)の3単位時間における教授戦略の発揮の実態(3単位時間の平均)を示したものである。これより、モニタ リング&コミットメント戦略が最も多く発揮(32%)されていたことが明らかになった。これには、本単元が「走り幅跳び」であったことから、練習活動時における個別の相互作用が多く展開されていたものと考えられる。次いで、インセンティブ戦略が多く認められた(9%)ことは、毎時間被験教師が学習のねらいを児童に理解させようとしていたことが窺える。加えて、授業の途中やまとめ の時間の「観察学習」に代表されるシグナリング戦略を発揮することで、めあての達成に向けた解決情報を共有化し、児童 - 教師間、児童-児童間の話し 合い活動を通して(コミットメント&シグナリング戦略:7%)、児童の課題の自 立解決を促進させようとしたものと推察された。他にも「横木幅跳び」や「ねらい幅跳び」といった練習活動の導入によるロック・イン戦略の発揮により、「走 り幅跳び」教材に内在する運動の面白さに触れさせることが読み取れる。こう した教授戦略の発揮により、児童の跳躍距離が単元前後で有意に向上したも のと考えられる(表2)。被験教師のこうした教授戦略の発揮には、単元前に運動教材に対する「児童のつまずきと対処法の知識」や「指導プログラムの知識」を研究者(大学教員)による介入から形式知として得ていたことが影響したものと推察された。
研究者紹介
山口 孝治(教育学部 教育学科)
専門分野
教科教育学
科学研究費採択
基盤研究B 体育授業における教師のモニタリング戦略に関する実証的研究2013-2015」/基盤研究C優れた体育授業を創造する教師の実践的力量形成に関する実証的研究2010-2012/若手研究(スタートアップ) 小学校体育授業における教師の戦略的思考に関する実証的研究2008 - 2009
最近の業績
- 小・中学校における健康安全・体育的行事の課題と展望一新学習指導要領における特別活動のねらいから考え る一/「佛教大学教育学部学会紀要」17号2018年3月
- 幼児期における運動指導にあり方の検討一基本的運動動作の習得とコーディネーション能力の向上を視点にー「教育学部論集』29号 2018年3月
- 幼児期の平衡性に関する研究動向について/「佛教大学教育学部学会紀要」17号 2018年3月
その他業績
刊行物
小学校ボールゲームの授業づくり-実践理論の生成と展開-
(創文企画)
2017年4月
刊行物
「学習成果の高い授業」に求められる戦略的思考
-ゲーム理論による「優れた教師」の実践例の分析-
(ミネルヴァ書房)
2017年2月