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日本的官僚社会の特質をさぐる

名前 佐古 愛己(歴史学部 歴史文化学科)
科研費種別 基盤研究C
研究課題 中近世公家の知の継承と財政基盤に関する基礎的研究一内記唐橋・東坊城家を事例に
研究期間 2017-2020

研究目的

本研究では大内記を代々輩出した東坊城家関係文書を主に用いて、詔勅や位記・宣命など天皇発給文書の調進を担い、古代より朝廷文書行政の中核を担う重職でありながら、本格的な研究が皆無である内記と、これを輩出した東坊城家等の実態解明を目指す。これにより、古代・中世に形成された公家の知識・技能が戦国の動乱期を乗り越え近世社会へと如何にして継承されたのか、文書論的視点も交えて検討する。さらに、知識継承の背後にある人的関係と財政基盤の創出、継承の方法を政治的動向をも踏まえて考察を加えることにより、日本的な官僚社会の特質の一端を解明することにも繋がると考えている。

加えて、中世末から急増する武家官位の叙任機会に乗じて積極的に公武の位記を作成して、内記が度々収入を得た実状についても、家領とともに財 政基盤としての側面から検討すべきと考えている。

幸いにも東坊城家や唐橋家関係文書は、成文堂文庫(旧御茶ノ水図書館 蔵)をはじめ比較的纏まって残されている。また、少内記を兼任する少外記 中原姓山口家の「中原家文書」94点が本学図書館に所蔵されており、本資料も内記の活動を知る重要史料として利用可能である。 本研究では、如上の史料分析を通じて、内記補任を作成し実態解明を進め、文庫の全貌および位記の文書論的検討から内記の知識体系を明らかにするとともに、位記作成の経済活動的側面も考察する。もって、中・近世公家の知識継承と財政基盤の一端を解明しようという目的のもとに研究を進め ている。

研究内容

内記は中務省の被接官として置かれた文書行政の中核に位置する官司の一つである。天皇・朝廷の重要文書を古代から幕末まで調進し続け、漢籍や 有職故実に通じた知識と文書行政に関わる技能を継承する責務を負ってい た。そのため大内記は、儒門の中で文筆に堪能な者を択んで任命する例であったため、高度な能力を有する紀伝道の文章博士を務めた菅原氏一門 (唐橋、高辻、五条、東・西坊城家)から多く輩出され、膨大な日記と著述を残している。古代から幕末という長期にわたる内記局の組織や人的構成の変化を調査すること、そして東坊城家など内記を務めた家系の日記や著述の全貌を把握し、文庫の全体像を明らかにする作業は、内記研究の基礎的作業といえよう。しかし、内記研究は皆無に等しくかかる本格的な調査すら行われていないのが現状である。

近年、中・近世の公家研究は、禁裏・公家文庫研究の進展などにより、史料。閲覧環境の整備が急速に改善され、天皇・公家の伝統的な知識体系の実態把握が可能になりつつあり、新たな可能性が開けてきた。かかる状況を踏まえて、本研究では内記関係文書の調査を開始し、内記研究の基盤整備を進めることを目指している。

内記の文筆の知識体系は、近年研究が盛んな近世公家の家業・家職研究の検討対象からは漏れているものの、前近代日本における知の最高峰と位置づけられるべきものと考える。ゆえに、彼らの文庫の全貌および家説を解明する作業は、前近代日本における知の体系の解明においても非常に重要だと了解する。さらに、内記作成の最重要文書の一つ「位記」(写真)は、従来 『延喜式』以降幕末まで千年近く形態が変わらない文書として注目されてきたが、最近では遅くとも戦国期までに変質し、いずれかの時点で復古様式に戻されたことが明らかになりつつある。本研究では古文書学的観点からも位記と中・近世内記の検討を進めている。



「寛永正月七日藤原宣季叙正二位位位記」の部分(京都博物館蔵:『中世の古文書』より)

弘化四年四月二十五日石清水臨時祭賜宣命図殿上(『孝明天皇紀:附図』より)

その他の研究との関連

発表者は、主として平安貴族社会における昇進制度(叙位・除目)や中世の公家社会における政治や政務、儀式に関する研究を行っている。平安貴族社会は日本古代の律令制に基づく行政組織や政治のあり方が変質し、新しい政治・行政システム、宮廷の儀式、さらには人的関係が生まれた時代である。それらは時代とともに変化を遂げつつも、中・近世の公家社会、さらには公家社会のそれらに影響を受けた武家社会にも引き継がれている。つまり日本の社会構造や人的関係を考える上で平安貴族社会は一つの原点といえると考える。内記を主たる検討対象とする本研究も、平安貴族・公家社会研究や官僚制度研究の中に位置づけることにより、長期的スパンで知識・技術継承、経済基盤、政治行政と内記のかかわりについての特徴を明らかにし、 日本的な官僚社会のあり方を考えてみたいと思う。

研究者紹介

佐古 愛己(歴史学部 歴史文化学科)

専門分野

日本史

科学研究費採択

若手研究(B)GISを活用した中世成立期京都と貴族社会の研究- 都市災害・造営・政治経済の関係性 2010-2013/若手研究(B)GISを活用した院政期貴族社会の研究:古記録の空間情報に見る貴族の行動様式の分析 2006-2007/平成23年度日本学術振興会科学研究費補助金(研究成果公開促進費・学術図書)刊行物の名称:『平安貴族社」 会の秩序と昇進」(思文閣出版より2012年2月刊行)

最近の業績

  • 「平安京の実像 - 都市と思想」(佛教大学歴史学部編『歴史学への招待』世界思想社、2016年9月)
  • 「無窮会神習文庫蔵『内記補任」(『歴史学論集』第7号、2017年3月)
  • 「官位・昇進に関する叙述からみた『源氏物語」の特色一物語と史書―」(『京都語文」第23号、2016年11月)
  • 「平安中・後期における都市と権力構造一天皇・上皇の移徒をめぐって―」(『鷹陵史学』第41号、20015年9月)
  • 「藤原忠実- 辛酸を嘗めて中世を切り開いた摂関家家長-」(元木泰雄編『中世の人物第一巻保元・平治の乱 と平氏の栄華』清文堂出版、2014年3月)

その他業績

平安貴族社会の秩序と昇進(思文閣出版)佐古 愛己 著

刊行物

平安貴族社会の秩序と昇進(思文閣出版)佐古 愛己 著
2012 年2月

杉橋隆夫・佐古愛己「平安貴族行動電子地図に」京都新聞

新聞記事

杉橋隆夫・佐古愛己「平安貴族行動電子地図に」京都新聞
2010年10月16日夕刊

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