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国文学から21世紀の学際学へ― 中国に現存する孝子伝図―

名前 黒田 彰(文学部 日本文学科)
科研費種別 基盤研究B
研究課題 古代幼学書の文化史的研究
研究期間 2015-2017

研究目的

日中の古典文学の基礎を形成したものの一つに、幼学というものがあります。幼学とは、今日の初等教育に当たるもので、文字を覚え、言葉を学ぶ、要は読み書きの習得を目的としていました。その現在に伝わるものが幼学書ですが、皆さんは幼いこ 稚園から小学一、二年生の頃の教科書やノートを持っていらっしゃいますか?殆どの方は、持っていないでしょう。そう、幼学書は実用書なので、習得してしまえば保存する必要がないのです。ですから、今日まで伝わる幼学書は、極端に少ないのです。しかし、子どもの時に覚えた事柄は、なかなか忘れないので、文学が作られる時 の基盤をなすものとなるのです。

私たちの科研のテーマは、そういった幼学書の一つ、孝の大切さを教える孝子伝を取り上げたものでした。孝子伝は、親や兄弟、家族の大切さを説く、孝経という儒教書を子ども達に理解させるべく、具体的な孝行の物語を集めた書物です。ところ が、古く中国に十種類以上あった孝子伝は、本国ではことごとく滅亡し(散逸するといいます)、目下日本に伝えられた二種類の孝子伝だけが、書物としての孝子伝 の面影を今に伝える資料となっています。私達の研究目的は、その孝子伝を全世界に紹介し、その様々な影響を調べるとともに、特に文学に対する孝子伝の影響がどのように日本文学の形成に与ったか、という点を明らかにすることです。

研究内容

幼学の会は、『孝子伝注解』(汲古書院、2003年)を公刊し、日本伝存の孝子伝本 文を世界に向けて発信する等(近く中国語版が北京大学より刊行される予定)、孝子伝本文を検討しながら、孝子伝図の蒐集に努めてきました。孝子伝図とは、孝子伝の物語を図像化したもので、後漢時代からの遺品が数多く残されています。私達が気付いたのは、これまで孝子伝図というものが体系的に研究されたことがなく(孝子伝本文が滅びてしまっていたからです)、しかも、孝子伝図が孝子伝本文の 未知の要素の数々を含んでいるということです。例えば母を亡くした丁蘭という孝子が、母親の木像を作って仕えるという物語がありますが、後漢時代の丁蘭図は、父親の木像を作ったとし、そのような孝子伝本文は現存していません。つまり、その図像は現存孝子伝本文より古い、元の丁蘭の物語を描き伝えているのです。

科研による研究内容は、その過半が現存する孝子伝図の蒐集と整理に充てられ、調査地域は中国はもちろん、遠く米国にも及びました。同時に私達の研究は、中国や米国などの研究者と連携する、国際的な共同研究の色彩を強く持ってきたのです。

研究結果

科研によるいくつかの成果の中から、一点ここで紹介します。それは、2006-2008年度の成果報告書『和林格爾漢墓壁画孝子伝図輯録』(中国内蒙古 自治区文物考古研究所、幼学の会編、2009年)と 2010-2012年度の成果報告書『和林格爾漢墓壁画 孝子伝図模写図輯録』(中国内蒙古自治区文物考古 研究所、中国内蒙古博物院、幼学の会編、2014年) のことです。

さて、孝子伝図の最高のものとは、後漢武梁祠画像石で、十七図もの孝子伝図を収め、古く体系的である点、当該墓(12図を収める)のみが唯一、それに匹敵しています。ところが、1971年9月に発見された当該墓のそれは、これまで図像の公刊されたことがありませんでした。このことは、研究上の大きな課題でしたが、2004年に訪中した際、陳永志先生(当時 文物考古研究所の副所長)と会う事が叶い、陳先生も該墓壁画の紹介を考えておられたところから、幸いにも日中共同研究が実現し、発見以来40年近くを経て、孝子伝図を始めとする全図像の精細なカラー図版を刊行することが出来ました。ところ で、該墓壁画は、発見されてすぐ、実物大の全図 像の正確な模写図が作成され、こちらは内蒙古博物院に保管されています。そこで原図に続き、模写図の公刊を企てたのが、二冊目の報告書となっており、両書を対照させれば、原図と模写図が一目瞭然となるよう配慮してあります。

本報告書は、日本と中国の二国間、また、二つの機関とわが幼学の会の共同研究となり、言語、習慣、文化の違いから、国際的な共同研究の難しさ、しかし、それ故に種々の難関を通っての結果の素晴らしさを知る機会ともなりました (科研を管理する佛大当局には本当にお世話になりました)。この報告書は、幼学の会の誇りであり、たまたま代表を務めた私など、21世紀の日本における、国際交流の手本となろうかと自負しているところです。


孝子伝図輯録6P下 丁蘭図

模写図輯録 6P下 丁蘭図模写図

古代孝道文化と図像芸術研究会プログラム

古代孝道文化と図像芸術研究会の成果が新聞記事になりました

古代孝道文化と図像芸術研究会の成果が新聞記事になりました

研究者紹介

黒田 彰(文学部 日本文学科)

専門分野

日本文学

科学研究費採択

基盤研究B 古代幼学書の総合的研究 2010-2012/基盤研究B 古代幼学書の発展的研究 2006-2008/基盤研究B 古代幼学書の基礎的研究 2003-2005/特定領域研究日中幼学書の比較文化的研究 2001-2002

最近の業績

  • 董籍図政(二)一呉氏蔵童謡石床の出現一/「佛教大学文学部論集」102号 2018年3月
  • 懼門生覚書一呉氏蔵東魏武定元年賀門生石床について一/「京都語文」25号2017年11月
  • 『黒田彰蔵平仮名本三国伝記 翻刻篇』/幼学の会平成29年度科学研究費基盤研究(B)成果報 告書、2017年5月
  • 呉氏蔵東魏武定元年程門生石床について一懼門生石床の孝子伝図一/「佛教大学文学部論集」101号 2017年3月
  • 蔡順、丁蘭、韓伯爺図政一呉氏蔵北魏石床(二面)の連れの一面の出現一/「国文学」2017年3月
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