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法然浄土教の基層と展開を探求する

名前 南 宏信(仏教学部 仏教学科)
科研費種別 若手研究B
研究課題 中世浄土教における新出写本の文献学的研究
研究期間 2015-2018

研究目的

近年の仏教学におけるデジタル画像、電子テキストの公開は、インターネット上で目覚ましい速度で展開し(IDP、高麗大蔵経研究所、日本古写経DB、SAT、CBETA、浄土 宗全書検索システム、『浄土教典籍目録』等)、我々は日々その恩恵を受けている。

しかし問題もまた内在する。例えば、『浄土宗全書』(全20巻)の殆どは近世の版本を 底本としており、後人の増広・編集が加えられた文献までも無批判に掲載している。つまり中世の人物・歴史を研究する際、依拠すべき古写本があるにもかかわらず、改編された近世の版本を無批判に根本資料にすることが往々にして確認できる。まさに目的と方法論が齟齬をきたしている未発達の研究状況といえる。我々は過去そのものと直結してはおらず、連綿と受け継がれながら変容してきた思想の延長線上に立っている。よって中世から近世にわたる浄土宗の問題意識を実証的に解明することは、看過すべきでない重要な課題であると捉える。

近世初期には浄土宗僧侶の養成かつ学問所である十八檀林が成立すると同時に華開く出版文化と相まって増広・編集を経て固定化される文献の諸相を解明する必要がある。本研究は、一方では典籍の原初形態を解明する遡及的研究(基底)により中世の姿を提示し、近世に増稿・編集を施す版本とを峻別する。他方、「改竄」として従来価値を見出されてこなかった増広・編集箇所を「近世初期浄土宗の問題意識」(展開)とし て積極的に規定し直すことを目指す。

研究内容

本研究で扱う文献は『往生要集鈔』(『同義記』)、『浄土宗要集』、『決疑鈔直牒』である。これらはすべて改編を経て近世初期に現在の内容に至ったことを実証している。そこで明確にすべきは、中世の古写本と近世の版本との内容を峻別し提示することである。まずは典籍の原初形態を解明する手立てとして(1)未調査である所蔵機関を 書誌学的に調査し、伝本の整理・流伝を考察する。(2)公開のテキストデータベース を活用することで、近世版本の翻刻作業の軽減を図りつつ、古写本と版本相違を踏まえつつの翻刻を遂行する。ここまでの作業で「近世初期浄土宗の問題意識」をアプローチする地盤が整える。(3)古写本 と近世の版本との比較が可能となり、その改編箇所を確定することができ、(4)この比較研究によって、近世初期版 本に潜む問題意識を解明していく。

かつての指摘以降、近世浄 土教典籍は「改竄」という心象が付きまとっている。以降近世初期に幾度となく開版される版本の1500 流伝を「近世初期浄土宗の問題意識」と いう枠組みの中で解明を試みることには 関心が払われてこなかった。本研究では「改竄」ではなく「近世初期浄土宗の問題意識」と積極的に規定し直すことを学術的な特色・独創的な点としている。

新出資料を対象とする原初形態の解明は、文献学的研究の常套であるが、筆者が特に念を置いている設問は、なぜそれらが近世初期に編集されながら固定化していくのか、ということである。中世の典籍の原初形態を解明することが、同時に「近世初期浄土宗の問題意識」を浮き彫りにする絶好の契機となろう。まさに表裏一体の関係にあるといえる。

研究結果

予想される結果と意義は、新出写本を近世の諸版本と比較することで、中世における著作の原初形態を解明することができ、一方では増広・編集が加えられた文献の該当箇所を抽出・検討することで、近世初期に固定化していく文献の展開を確認できる。

例えば「諸行往生」の可否の問題である。「諸行往生」の可否は法然の生存時期から 現在に至るまで活発に論じられる重要概念の1つである(本庄良文「『選択集』第十三章における「不可得生」の経典解釈法」、『浄土宗学研究』37号、2010年)。「諸行往生」 は『無量寿経』第20願、善導(613 ~ 681)撰『観念法門』を根拠に成立している。本研究の対象文献である『浄土宗要集』の場合、この『観念法門』の引用は伝本によって出 入りがあり、ある箇所では『往生要集』の文に置換されている。つまり諸行往生の解釈をめぐって同一書物中に触れ幅が確認できるのである。上記の作業を踏まえながら読 み込むことで「近世初期浄土宗の問題意識」を解明することに本研究の意義がある。

また『往生要集鈔』の膨大な引用は、唐・宋代の大蔵経に依るが、近世に増広する際にそのすべてを後代の高麗・黄檗版大蔵経の引用に差し替えており、その全貌はいまだ明らかとなっていない。良忠の依拠した大蔵経の系統の出典を確定するためには、近年公開を継続している国際仏教学大学院大学の古写経データベースを利用することで、可能となろう。

本研究は、従来の研究史の展開の中で新たに問題となった、あるいは見過ごされてきた課題を遂行することで、中世浄土教典籍にのみ留まることなく、近世初期の出版 文化や他宗派の問題意識を俯瞰する、複数の学問領域にまたがる波及効果の一助になることと期待する。

これまでに以下の研究成果を寄稿・発表を行った。

  1. 「身延文庫蔵『決疑鈔探議』断簡の一考察」(『印度学仏教学研究』64(1)、2015年)
  2. 「慶安三年版『決疑鈔直牒』に見る跋文の問題」(『東山研究紀要』60、2016年)
  3. 「影印・翻刻 東向観音寺蔵 如導写 良忠撰『浄土宗要集』巻第二」(『浄土宗学研究』42、2016年)
  4. 「金剛寺蔵『選択本願念仏集』上下解題」(『法然上人研究』8、2016年)
  5. 「法然「選択証誠」成立考 - 『法事讃』「如来選要法」をめぐって―」(『印度学仏教学研究』65(1)、2016年)
  6. 「日本中世浄土教対一切経的接受一以良忠《往生要集鈔》為例」(第四屆佛教文獻與文學國際學術研討會、2016年)
  7. 「法然「選択証誠」と「念仏多善根」」(『東山研究紀要』61、2017年)
  8. 「法然における善導『法事讃』「直為弥陀弘誓重」等の文をめぐる解釈」(『印度学仏教 学研究』66(1)、2017年)

研究者紹介

南 宏信(仏教学部 仏教学科)

専門分野

仏教文献学(浄土教)

科学研究費採択

若手研究(スタートアップ) 『往生要集』注釈書の研究-良忠撰『往生要集鈔』の新出写本を中心にして 2008-2009

最近の業績

  • 法然「八種選択義」の淵源-『往生要集』から「選択集』へ/「浄土宗学研究」 41号2015年3月
  • 『日本古写経善本叢刊書陵部蔵玄一撰無量寿経記身廷文庫蔵義寂報無量寿経述記』第5輯/日本古写経研究所、2013年2月
  • 良忠撰『往生要集』注釈書の成立過程/「法然上人八〇〇年大遠忌記念法 然佛教とその可能性」2012年3月

その他業績

「仏教書註釈本の最古の写本確認「1314年」記述上京の寺院」 京都新聞(12月9日朝刊)など

新聞記事

「仏教書註釈本の最古の写本確認「1314年」記述上京の寺院」 京都新聞(12月9日朝刊)など

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