研究活動紹介
ウェルビーイングに影響を与える作業と援助者の関わり
名前 | 白井 はる奈(保健医療技術学部 作業療法学科) |
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研究課題 | ウェルビーイングに影響を与える作業と援助者の関わり |
研究内容
はじめに
作業療法は「人は作業をすることで元気になれる」を理念としたリハビリテーションで す。人+環境+作業がうまくマッチングした時に、ウェルビーイングが高まります。どのような作業がウェルビーイングを高めるのか、援助者のどのような関わり方がウェルビー イングを高めるのかについて研究を行っています。特に、認知症をもつ方への作業療法の質向上のために、研究以外にも教科書の執筆や海外の文献の翻訳も行っています。
研究活動
1.認知症をもつ方への作業療法
認知症領域の作業療法の質向上のための研究を行っています。施設に入所している重度認知症の方が笑顔になったり笑ったりされるには、施設職員とのコミュニケーショ ンが必要であることを、フィールドワークから明らかにしました※1。重度認知症の方に、 こちら(介入者)が笑顔で関わることで、クライエント(認知症をもつ方)の笑顔も増加し、ウェルビーイングが高まることを介入研究により明らかにしました※2。また、熟練作 業療法士にインタビュー研究を行い、重度の方への関わり方で大切にすべきことを明らかにしました※3。
現在は、クライエントに提供する作業活動が適切かどうかを見極めるために、自分の 思いをうまく言葉にできない方のQuality of Activities(活動従事の質)を観察から評価するための評価法を、共同研究者とともに開発中です※4。
2.花を用いた作業活動の効果
作業活動をどう用いるか、どのようなコミュニケー ションをとりながら活動を行うかがウェルビーイング を大きく左右しますが、作業活動そのものがもつ効果もあります。生花を用いた活動の効果を研究しており、 フラワーアレンジメントを行うことでストレスが緩和 (介入後に唾液中のコルチゾール値が減少)すること (図1)を明らかにしました※5。現在は、小学生への花育の効果検証を行っています。
3. 援助者に求められる援助観
私自身が乳児を保育所に預ける母親として、保育内容に感銘を受けた保育士にインタビューさせて頂き、熟練保育士の援助観を探索しました※6。ひとを援助する上で、まず、【相手への思い】があり、行動指針としての【関わり方】を心にとめ、【具体的な方法】 を実践していく、というプロセスがありました。 【保育の質向上を支えるもの】として、知 識を得るための研修会への参加だけでなく、保育を語り合い、尊重しあえる上司や同僚 といった仲間の存在や、保育士自身が家族や恩師に大切にされた経験も大変大きいことが明らかになりました。得られた結果は、職種を問わず大切にしなければならないことであり、質の高い作業療法士を養成する上での示唆を得ました。
地域連携活動
コミュニティエンパワメントに関心を持ち、「二条駅かいわいまちづくり実行委員会」 の皆さんと連携して、地域の子育て支援を行っています。具体的には、月に1回、佛教大 学二条キャンパスで「絵本のひろば」(図2)を開催し、地域のボランティアの方々のコーディネートを行っています。また27年度より毎年8月に「わんデイちびっこひろば」(図 3)を地域の方々、作業療法学科、社会福祉学科の学生と連携して開催し、毎回100組を超える親子にご参加頂いています。学生にとっても、企画・運営の過程を通して人間力が高まるよい機会となっています。
図2. 絵本のひろばの様子
図3. わんデイちびっこひろばの様子
まとめ
作業療法士として、教育者として、研究者として、一人ひとりのウェルビーイングが高まるような実践、研究をしていきたいと思っています。そして、一人ひとりの人生、生活 に誠実に向き合い、ウェルビーイングを高める援助のできる作業療法士をこれからも 養成し、学生とともに成長していきたいと思います。
【文献】
※1 重度認知症高齢者の笑い・笑顔表出に関する探索的研究:白井はる奈他, 作業療法24(3),pp253-261,2005
※2 介入者の表情が認知症高齢者の表情に与える影響 -スマイルスキャンを用いた分析 -:白井はる奈他, 佛教大学保健医療技術学部論集5, pp13-19,2011
※3 重度認知症高齢者に対する熟練作業療法士の介入ストラテジーに関する探索的研究:白井はる奈他, 作業療法30(1),pp52-61, 2011
※4 A Qualitative Study to Explore Ways to Observe Results of Engaging Activities in Clients with Dementia: Masahiro Ogawa, Seiji Nishida and Haruna Shirai. Occupational Therapy International. Volume 2017, Article ID 7513875, 8 pages, 2017
※5 地域在住の中高年成人に対するフラワーアレンジメントの介入効果:心理面の変化と唾液中コルチゾール値に着目して:白井はる奈他.佛教大学保健医療技術学部論集6, pp11-21,2012
※6 援助者に求められる援助観 - 乳児保育における熟練保育士の語りの分析を通して-:白井はる奈他. 佛教大学社会福祉学部論集11, pp11-30, 2015
研究者紹介
白井 はる奈(保健医療技術学部 作業療法学科)
専門分野
作業療法学
最近の業績
- TA Qualitative Study to Explore Ways to Observe Results of Engaging Activities in Clients with Dementia (Occupational Therapy International. Volume 2017. Article ID 7513875,2017)
- 「対人援助者に求められる援助観 -乳児保育における 熟練保育士の語りの分析を通して-」(佛教大学『社会 福祉学部論集』 11, pp11-30, 2015)
その他業績
刊行物
『認知症へのアプローチウェルビーイングを高める作業療法的視点』(エルゼビア・ジャパン, 2007)
刊行物
『認知症の作業療法 第2版 ソーシャルインクルージョンをめざして』(医歯薬出版, 2016)
刊行物
『認知症をもつ人への作業療法アプローチ - 視点・プロセス・理論-』(メジカ ルビュー社, 2014)