研究活動紹介
ネットいじめの構造と学力との因果関係
名前 | 原 清治(教育学部 教育学科) |
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科研費種別 | 挑戦的研究(萌芽)/基盤研究(B) |
研究課題 | ネットいじめの構造と学力との因果関係 |
研究内容
ネットいじめの実態
ネットいじめは、どの程度、発生しているのだろうか。私たちが2015年に京都府と滋賀県の高等学校98校、66,399人を対象に実施した調査では、高校生の8.7%が「ネットを介してイヤな思いをしたことがある」と回答した(高校入学後に限定すれば5.4%)。その内訳は、「twitterによる誹謗中傷」(51.8%)や「LINEでの誹謗中傷」(39.7%)が中心となる。かつて多かった 「メールでの誹謗中傷」(18.4%)や「ブログ・プロフでの誹謗中傷」(19.0%)は減っている。「写真や動画」(9.7%)や「学校裏サイト」(3.9%)もあった。
高校生のネットいじめの3つの特徴
1つめは、被害者に対する事実無根の嘘や個人情報が、加害者に明確な 悪意の自覚がないまま、笑いなどの「ネタ」としてネット上にさらされてしまうことである。被害者は不特定多数に見られることで、周囲から孤立したり、 好奇な視線で見られたりする苦痛がある。最近は、いじめとの境界線があいまいな「いじり」が、子どもたちの粗野なコミュニケーションの一手段として 顕著になってきたが、ネットでもそうした関係が蔓延し始めている。
2つめは、被害者の86.1%が「書き込みを誰が書いたか特定できた」と回答し、「匿名性」が薄らいでいることである。ネットいじめの被害者と加害者 の間には一定の人間関係が存在する場合が多い。仲間内のコミュニケー ションから被害者がネット空間に誘われ、それに同調しなければ仲間でないような圧力を感じる。あるいは、自分がネットいじめの対象とされることへの恐怖心から、集団に過度に同調してしまう。希薄な友人関係を基盤とした集団では、あるときは被害者であっても、集団に同調する意識から容易に加害者になり得る。
3つめは、現実世界でのいじめがネット空間にも転じやすいことである。リアルないじめ(「ひやかし、からかい、悪口」「仲間外れ、無視」「殴られる、金銭をたかられる」)を受けた経験のある生徒ほどネットいじめの被害に遭う割 合が高い。両者の相関関係は強く、ネットいじめはリアルないじめと同一線上で発生している。
学力とネットいじめとの関係
グラフは縦軸にネットいじめの発生率、横軸に学校の偏差値とし、98校をクロス集計した。発生率が最も高いのは偏差値が最も低い学校群(1)だが、必ずしも偏差値に沿って右肩下がりにはなっていない。偏差値66超の学力 高位群(2)でもネットいじめは発生しやすく、偏差値51~55の学力中位群(3)の発生率も高い。全体ではWの波形になる。
その背景を分析すると、学力層によってネットいじめの特徴が異なっていることが分かる。①の低位群は「直接型」が他と比べると多いのに対して(既読無視をしたことがある①63.1%>②55.1%)、高位群の②は「笑い」を伴う「間接型」が起こりやすい(twitterによる誹謗中傷①44.8%<②54.5%)。③の中位群は、学力の分散が最も大きく、多様な価値観の葛藤があると考えられる。自分と考え方や価値観が異なる「異質な他者」が混在しやすい空間にはネットいじめが発生しやすい。
学力という切り口だけでも、学校ごとにネットいじめの特質が異なるということは、それぞれに見合う対策も異なるということだ。
例えば、③の学力中位群には、人権の視点から見ても、人間の多様性への 理解やつながりへの寛容がもっとも高く求められるべきであろう。実際、その理解の上に立ち、大きな抑止成果をあげている学校もある。「ネットのこと はわからない」「ネットは子どもの問題」とせずに、ネットいじめという新たな教育課題の実態の把握につとめ、それぞれの学校の実態に合わせた対策が 求められている。(2017年3月20日 日経新聞記事より抜粋)
※科学研究費採択 基盤研究(B)成果
研究者紹介
原 清治(教育学部 教育学科)
専門分野
教育社会学、学校病理、教師教育
科学研究費採択
17K18677「ネットいじめの国際比較一世界共通質問紙作成の挑戦-」2017-2019 研究代表者/15H03491「ネットいじめの構造とその対策に関する実証的研究」 2015-2019 研究代表者
最近の業績
- 「第6章第1節 いじめ問題」西岡加名恵編著/高見茂・田中耕治・矢野智司監修『教職教養講座第7巻特別活動と生活指導』共著、2017年、pp.154-167
- 『学校インターンシップの科学』 共著 ナカニシヤ出版 2016.3
- 『比較教育社会学へのイマージュ』共著学文社 2016.8
その他業績
新聞記事
日経新聞
2017年3月20日
刊行物
ネットいじめはなぜ「痛い」のか(ミネルヴァ書房)原清治 編著 山内乾史 編著
2011年10月