研究活動紹介
民俗学者竹田聴洲の撮影した京都の念仏系民俗芸能
名前 | 斉藤 利彦(歴史学部 歴史文化学科) |
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科研費種別 | 若手研究B |
研究課題 | 上方歌舞伎の歴史的研究/無形文化遺産の映像記録撮影の学史的研究 |
研究内容
はじめに
近年、取り組んでいる研究
昭和30年代に竹田聴洲が行なった、京都の念仏系民俗芸能の映像記録撮影に関する実態解明。
研究成果
- 芸能史研究における映像記録撮影の系譜を明らかにした。
- 同時に竹田民俗学のなかに、映像民俗学的要素を見出した。
竹田の撮影した映像記録=竹田フィルムと表現する。

【図1】
竹田聴洲とは
- 大正5年(1916)1月29日~昭和55年(1980)9月6日。享年64。
- 民俗学者。文学博士。同志社大学文学部教授を経て、佛教大学文学部教授。
- 従来の墓制・同族祭祀・宮座研究をさらに発展。
- 浄土宗寺院の開創伝承を収録した『蓮門精舎旧詞』の分析。地域の無名寺院を歴史民俗学的、宗教社会史的に考究。晩年は人類学を志向。『竹田 聴洲著作集』全9巻(国書刊行会)。
⇒竹田の研究業績のなかで、民俗芸能の映像記録 撮影調査はほとんど知られていない。

【図2】
日本の学術における映像記録撮影の流れ
- 大正元年(1912)、フランスの実業家アルベルト・カーンが派遣した映写技師が撮影した金剛流の能五曲や京舞など。
- その後も、民俗誌的映像記録撮影はヨーロッパの人々の手によってなされる。
- 日本人の手による映像記録撮影の最初=諸説あり。
⇒大正14年(1925)、北海道帝国大学の動物学者八田三郎「白老コタンのアイヌの生活」モノクロームフィルム35ミリ・4500フィート(55分)といわれる。 - 昭和ひとケタ代から日本人による映像記録撮影は本格化。3つの潮流
- 渋澤敬三とアチック・ミュージアムの面々による民俗学・人類学系統。
- 町田嘉章らの音楽学や児童演劇研究系統。
- 西田直二郎の行なった人類学や民族学、民俗学に接近した歴史学系統。
- 竹田聴洲の映像記録撮影は③の西田の系譜を引く。
竹田聴洲の撮影した京都の念仏系民俗芸能
- 昭和32年(1957)4月~同36年(1961)8月までの4年間。
- 同志社大学人文科学研究所「京都に於ける社会発展の諸条件の研究」班 より研究委嘱。
- 京都市中の念仏系民俗芸能を映像で記録。【図3・4】
- 内訳は【表1】 を参照のこと。

【図3】

【図4】

竹田フィルムと撮影方法
- 8ミリ白黒フィルムによる映像撮影。
- 映像撮影と録音は別個に行ない、ソニー製8ミリフィルムを用いてエルモ映写機で撮影。
- 上映の際は、映像テープと録音テープを同調させる方法。
- フィルムのタイトルと録音テープのスタートを合わせて同時に上映させるといった具合に、映像と録音が整うよう工夫。
竹田フィルムの特徴
- 昭和33年~同35年にかけて集中的に調査・撮影。
- 六斎念仏・大念仏狂言といった京都の念仏系民俗芸能を撮影。
- 三大大念仏狂言のひとつ、千本ゑんま堂大念仏狂言の撮影が特筆できる。
竹田フィルムと千本ゑんま堂大念仏狂言
- 昭和34年5月24日撮影【図5・6】
- 現行の千本ゑんま堂大念仏狂言【図7】
- 千本閻魔堂狂言堂は昭和49年(1974)5月、不審火によって全焼。
- 竹田フィルム:白黒ではあるが、焼失前の衣装によって演じる姿が映像として記録。
- 全焼前の狂言堂とゑんま堂狂言の姿を伝える、貴重かつ大きな意義をもつフィルム。

【図5】

【図6】

【図7】
まとめとして
竹田の学問業績で埋もれている調査研究成果の一端を提示。
- 一時期ではあっても、無形の動態=芸能(民俗芸能)を映像記録撮影した竹田。
- 竹田民俗学における映像民俗学的要素の発見。
- その背景=修学過程や人間関係=西田直二郎や京都文化史学の存在。
- 多彩で特異な民俗学者竹田聴洲という存在の明確化。
【参考文献】
北村皆雄「渋沢敬三 映像の系譜と花祭」(『藝能史研究』206号、2014年)
斉藤利彦「西田直二郎とヨーロッパ留学」(『佛教大学宗教文化ミュージアム研究紀 要』第4号、2009年)
斉藤利彦「京都文化史学派と民俗芸能撮影の系譜」(『芸能史研究』第206号、2014年)
斉藤利彦「竹田聴洲と京都の念仏系民俗芸能の映像記録撮影について」(『佛教大学宗 教文化・ミュージアム研究紀要』第10号、 2014年)
山路興造「無形文化遺産の記録保存における歴史と課題 一無形民俗文化遺産を中心にー」(『日本印刷学会誌』53巻第2号、社団 法人日本印刷学会、2016年)
研究者紹介

斉藤 利彦(歴史学部 歴史文化学科)
専門分野
日本芸能史 日本文化史
科学研究費採択
近世芸能興行の「興行権」と動産所有に関する相関的研究/近現代上方歌舞伎の伝承に関する基礎的研究
最近の業績
- 江戸時代の上方歌舞伎と座本(『歌舞伎研究と批評』58号 2017年4月)
- 竹田聴洲のみた祇園祭 一昭和35年の調査を中心に一(『藝能史研究』1218号 2017年7月)
その他業績

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