研究活動紹介

武漢文学散歩

名前 瀬邊 啓子(文学部 中国学科)
研究課題 新時期以降の武漢の都市小説及び文革期の文学

研究内容

新時期以降に見る武漢の都市文学とその作品舞台

新時期文学とくに1980年代に地域を舞台にし、当該地域の文化 や社会を描いた作品が多く登場した。上海や北京といった従来か らある地域文学だけではなく、さまざまな地域の都市部を中心とした作品が発表され、80年代末から90年代前半までに、北京の"京味 小説"、上海の"海味小説"以外に、"津味小説""漢味小説""蘇味小説"といった呼称が付けられた。(樊星『当代文学與地域文化』)

そのなかでも武漢を舞台とし、"漢味小説"や"江漢作家群"と呼ばれる作品群に着目してきた。"漢味"小説形成初期から武漢の各 「通り」に焦点を当て、武漢内外に武漢の地域文化や社会生活を喧 伝する作品群は武漢の文化や生活を外に知らしめる「ガイドブッ ク」的な役割を担ってきた。それだけではなく、武漢三鎮とも呼称され、一つにまとめきれない武漢の文化的な特色を「雑」(池莉「武漢 話題」。ここでは湖北料理を「雑」と称した)として東西南北の文化 が混在していることこそが武漢の特色であるとし、従来武漢人自身 が示すことのできなかった文化的特色を明確にした。

作品舞台の"現在"

2015年度、サバティカルで中国社会科学院において研究生活を おくる機会を得た際、これまでに確認できていなかった作品舞台を 調査してきた。例えば、池莉「不談愛情」のヒロイン吉玲が抜け出したいと願ってやまなかった花楼街は、90年代の江漢路周辺の細い路地とも異なる空気感を有していた。その猥雑さは花楼街の持つ息づまった雰囲気を感じさせ、吉玲がなぜこの通りを蔑み、抜け出 そうとしたのかを体感させてくれた。

映画化されたことで有名になった「生活秀」では、主人公来双揚 が吉慶街で鴨頸を売っていたことから、鴨頸が名物となった。作品同様、吉慶街では夜ごと夜市が立つが、今は鴨頸を売る店はない。ただし鴨頸はいくつものチェーン店で扱われる武漢「名物」となっている。

このように花楼街など作品世界の雰囲気を残している通りもあ るが、多くの通りが再開発により作品に描かれた「風景」を失ってしまった。池莉「冷也好熱也好活着就好」では、すでに失われつつある武漢の食文化や風物詩を描き、それらを「記憶」に留める作業が行われた。実際、江漢路を中心としたエリアでは80年代から90年代に描かれた作品世界は存在せず、小さな路地もなくなってしまった。吉玲が働いていた新華書店は姿を消し、四季美や蔡林記もチェー ン店化してしまい、従来の場所には存在しない。つまりすでに「ガイドブック」としての役割は果たすことはできず、作品は一つの「記録」となってしまったのである。

また方方が取り上げた曇華林や花園山は作品の雰囲気とは異な り、再開発による観光地化が進んでいる。その観光地化には小説そ のものも宣伝に用いられており、"漢味小説"が担っていた武漢の都 市文化や生活の紹介という性質が変化し新たな役割を付与されつ つあることが見てとれる。

研究者紹介

瀬邊 啓子(文学部 中国学科)

専門分野

中国現代文学、言語文化学

最近の業績

  • 「方方の近作に見る中国社会」『佛教大学文学部論集』第101号、2017
  • 「日本中学国語課本裡的《故郷》」『魯迅研究月刊』 2015年第11期

その他業績

単著「藍天の中国・香港・ 台湾 映画散策」 〈天涼シリーズNO.8〉 三恵社

刊行物

単著「藍天の中国・香港・ 台湾 映画散策」 〈天涼シリーズNO.8〉 三恵社
2010年

共著「文学の力 時代と向き合う作家たち」 笠間書院

刊行物

共著「文学の力 時代と向き合う作家たち」 笠間書院
2014年3月

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