研究活動紹介
教育思想の歴史の歴史を追う
名前 | 相馬 伸一(教育学部 教育学科) |
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科研費種別 | 基盤研究B |
研究課題 | 教育思想史のメタヒストリー的研究 |
研究期間 | 2017−2021 |
研究目的
教員養成課程では「教育の理念・歴史・思想」について学ぶこととされている。その中心的な分野が教育思想史だが、それは自然にできあがったわけではない。18世紀末以降、欧米では国民国家形成の手段として学校教育が期待され、教員養成制度が確立していった。そのカリキュラムとして、教育思想の歴史が扱われるようになり、19世紀なると、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカでは、各国の特色を反映した教育思想史のテクストが現れた。19世紀後半、近代化を開始した日本はそれらを受容したが、それらは私たちが教育について考える際の背景的な知識となっている。本研究は、教育思想史を歴史的に再検討することによって、教育のとらえなおしに寄与することをめざした。
研究内容
教育思想史・教育哲学を専攻する若手・中堅の研究者を組織し、①教育思想史がテクストとしていかに成立し、その記述にどのような特質があるか、②教育思想史のテクストにおける古典的思想家とそのテクスト受容の再検討、③教育思想史の方法論的視点の再検討にとりくんだ。①に関しては、ドイツのラウマーおよびシュミット、フランスのミシュレ、コンペーレ、イギリスのブラウニング、アメリカのブロケット、モンローらの教育思想史テクストの成立過程や影響関係を検討した。②に関しては、教育思想史テクストにおいて必ずといってよいほどとりあげられるコメニウス、ルソー、ペスタロッチ、ヘルバルト、デューイに焦点を当て、それらのテクストが教育思想として「どのように読まれてきたか」と同時に「どのようには読まれてこなかったのか」を問い直した。③に関しては、歴史家のヘイドン・ホワイトが『メタヒストリー』で論じて以来の歴史記述の議論をこれからの教育思想史研究がいかに引き受けられるかについて検討した。

ドイツのラウマーによる『教育と教授の歴史』

フランスのコンペーレによる『教育学史』

ドイツのクレッペルによる教科書の翻訳書

アメリカのブロケットによる教科書の翻訳書(明治10年刊の最初の教育史教科書)
研究成果
教育思想史学会の平成29年から令和2年の大会において連続してコロキウムを企画し、①アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの教育思想史テクスト、②教育思想史における主要概念としての自然及び自然主義、③ペスタロッチの解釈の変容、④教育思想史のアジアにおける受容の一事例としての清末・民初、⑤ヘイドン・ホワイトのメタヒストリー的視点をとりあげ、有意義な討議を提供し、その成果を教育思想史学会年報『近代教育フォーラム』に公表した。これらの研究討議を通じて、あるテクストについて、それをあつかった別のテクストが書かれる積み重ねのなかで、思想のカノン化がなされ、いわゆる通説が形成されてきたことを明らかにし、教育思想史の可能性とこれからの課題について考察することができた。
研究者紹介

相馬 伸一(教育学部 教育学科)
専門分野
教育学
科学研究費採択
- 基盤研究C(24530977)「コメニウス教育思想の再解釈に向けての基礎的研究」平成24年~平成28年度
最近の業績
- 「戦前期日本におけるコメニウス言説再考」1~4、『佛教大学教育学部論集』第31号(2020年3月)、『佛教大学教育学部学会紀要』19号(2020年)、『佛教大学教育学部論集』第33号(2022年)
- 『オンライン教育熟議オン・コメニウス』、晃洋書房、2020年11月、全157頁
- 「コメニウスのデカルト批判再考1-「機械工によって反駁されたデカルト並びにその自然哲学」(1659)を中心に」、『広島修大論集』、第62巻第1号、pp.147-165、2021年9月
- 「コメニウスのデカルト批判再考2―『P.セラリウスの反論についての所見』(1667)を中心に―」、『佛教大学教育学部学会紀要』、第21号、pp.1-16、2021年9月
- 『コメニウスの旅―〈生ける印刷術〉の四世紀』、九州大学出版会、2018年8月、全389頁
その他業績
受賞業績
第16回佛教大学学術賞(社会科学部門)2019/10