株式会社伊藤久右衛門 代表取締役社長 広瀬 穣治さん
「宇治茶」の在り方を探求し続け、その可能性を広げていきたい
卒業後、接客やECサイト運営に従事
天保3(1832)年創業、宇治市に本社と本店を構える株式会社伊藤久右衛門は、抹茶スイーツの開発やインターネット販売を展開しながら、新しい宇治茶の在り方の探求を続けている。その旗振り役を務めるのが広瀬穣治さんだ。
新設学科に惹かれ入学した佛教大学では、柏熊路子先生のもとで社会心理学を学び、スキーサークルで活動するなど充実した4年間を過ごした。「とにかく人数が多く、にぎやかでした。私は毎シーズン、スキー場でアルバイトしながらスキーざんまいの冬を過ごしました。学生時代の懐かしい思い出です」
卒業後は大手呉服グループに入社し、接客販売や店舗マネジメントの楽しさを覚え、着物の職人・作家さんの技や心意気に触れた。しかし、実店舗での小売業だけでなくネットビジネスに興味が湧き、転職を決意。当時、日本のビジネスモデルになかったアパレルECブランドのベンチャー企業の立ち上げに参加。神的通販サイトと呼ばれるまで成長を遂げたのは、広瀬さんの経験と知識が大きな推進力となったに間違いない。
創業家一族外で初の代表取締役に
伊藤久右衛門は業界に先駆けてネット販売に着手していた。先見の明で飛躍的な売上拡大に導いた前社長の北村公司氏(現会長)とはEC事業者交流会で知り合った。「当時、組織のデータ管理の重要性が高まっており、私の得意分野として相談を受けるうちに入社することになりました」
スキルを生かせるうえ、再び京都の伝統産業に関われる。しかも新規事業にも意欲的とくれば、「ここで働けるのは一石二鳥。おおらかな社風も魅力でした」。BIツールや新POS導入、宇治市以外での出店、国内卸事業開始など、さまざまなシステム構築や事業展開を主動した。そして2022年、創業家一族で代々営まれてきた"家業"を、いわば宇治茶の門外漢だった広瀬さんが引き継ぐことに。大抜擢である。「プレッシャーもありましたが、よくそんな面白い舵取りをするなあ」が第一印象だったと笑う。
チャレンジできる環境で前へ進む
「宇治茶を完成形ではなく未完成のものと捉え、可能性を拡げてきた自負がわが社にはあります」。スイーツをはじめ、お酒、カレー、パスタ......と良質な抹茶の風味を引き出した商品開発力は最大の強み。急須で淹れるスタイルだけでなく、多様なライフスタイルに合わせてユニークな感覚を取り入れる。「今後は食品以外の商品開発にも力を入れたいし、海外事業にも再挑戦したい。2025年の大阪・関西万博は商機と考えています」
佛教大学で学んだ、社会情勢と密接にリンクする人の行動心理が役立っているという。「20代は"やりたいこと"を優先するよりも"できること"を増やし、30、40代になって本当にやりたいことに向き合うほうが、成功率も高まると思います。チャレンジできる会社を選んでほしい」。時流を読み、目の前の課題に専心してきた広瀬さんだからこその、説得力のある仕事観であり後輩へのメッセージだ。
広瀬 穣治(ひろせ じょうじ) | 1978年滋賀県生まれ。2001年に佛教大学社会学部応用社会学科卒業後、大手呉服グループに入社。2005年、ドリームビジョン株式会社(現・夢展望株式会社)に転職し、ECサイト運営に携わる。2010年に株式会社伊藤久右衛門入社。企画室主任や事業統括本部本部長などを経て、2017年専務取締役就任、2022年から現職。座右の銘は「凡事徹底」。スキーや食べ歩きも好き。 |
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(2024.1)