くじ改め役・正使を務めた山鉾巡行、正真正銘のフィールドワークが研究テーマに
学部 | 歴史学部 |
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学科 | 歴史文化学科 |
学年 | 3年生 |
氏名 | 宮本 隆太さん |
緊張と興奮が入り交じる、一生に一度の体験
「とても緊張しました。大勢の人前で、しかも一人で、何かを披露するという経験は初めてだったので」。2022年7月、宮本隆太さんはコロナ禍により3年ぶりに行われた祇園祭・山鉾巡行で、綾傘鉾のくじ改め役・正使を務めた。
中京・下京区の各町に伝わる山鉾が四条通から河原町通を経て、御池通まで巡行する山鉾巡行は、祇園祭の大きな見どころの一つ。巡行がくじ通りに行われているかを確認するくじ改めは、くじ札入りの文箱を奉行役の京都市長に差し出し、通行の許しが得られると山鉾に扇子を広げて合図を送る。一つひとつの所作が決まるたびに観衆から拍手が沸き起こる重要かつ華のある役だ。一連の所作のうち最も大変だったのが、「解いた文箱の紐を巻き戻すところ。遠心力を使って一気にやらないと中途半端になります。きれいに巻き戻せたときは、よっしゃー!と心の中で叫んでいました(笑)」。綾傘鉾合同での通し稽古はもちろん、自宅でも練習を重ねた賜物だ。
宮本さんは15年前、綾傘鉾の稚児としても参列している。当時は長い行程を行列で練り歩くのは暑くてしんどかったものの、いずれ正使を務めることになる通例はごく自然に受け入れていたのだとか。今年は8歳の弟さんが稚児を務め、兄弟で大役を果たしたことになる。「見物するのもいいけど、どうせなら参加したい」と語るお祭り男は、10月の時代祭でも維新勤王隊の一員に。約13年続けている笛を奏しながら隊列の先頭を歩いた。
将来は「生徒と一緒に楽しく作り上げる授業」を!
京都で生まれ育ち、幼い頃から神社仏閣を身近に感じていた宮本さん。小学生のとき、歴史学習漫画『日本の歴史』シリーズにはまり、図書館で片っ端から借りて読みあさった。なかでも近世史に魅了され、「約260年続いた江戸時代は、どの将軍の代も波乱曲折の出来事が盛りだくさんで面白いですね」。推しは、大政奉還の舞台となった二条城。そんな京都の歴史遺産のフィールドワークができると知り、佛教大学の歴史文化学科に進学した。入学当時から、研究テーマは祇園祭にしようと考えていたという。
コロナ禍で想定していたフィールドワークがままならない中、延期になっていた綾傘鉾の正使を務めることが決定。山鉾巡行参加という、またとない究極のフィールドワークが実現した。「これを機に山鉾について調べていると、個性豊かな34基それぞれに表された意匠の由来がとても興味深かった。その中から〝傘鉾〞に絞り、卒業論文のテーマにしました」。今後は棒振り囃子(綾傘鉾は大きな傘と棒振り囃子の行列をなすのが特徴)に参加することも検討中だという。
卒業後の希望進路は「社会科の高校教師一択です」と明快だ。高3のときの担任の先生が、どんな生徒とも分け隔てなく接し、受験時もマンツーマンで熱心にサポートしてくれた。かと思えば、授業中に雑言を繰り出すクセの強さもあり、「こんな生徒目線の先生になりたい」と目標になった。「気軽に話せる存在でありたいです。授業も、教壇に立つ側の一方通行ではなく、生徒が主体的に参加できる形がいいな」。目指す教師像を胸に、書類提出のために教育実習先を訪問する直前のスーツ姿での取材となった。

(2022.12)