第1回研究会開催報告（法然仏教の多角的研究）
日時：2016年4月15日（金曜）13：00～14：20
会場：紫野キャンパス鹿渓館1階 第1会議室
参加者：16名
概 要
＜センター長挨拶＞
本庄良文法然仏教学研究センター長より挨拶
＜研究発表＞
発表者：兼岩 和広（佛教大学大学院博士後期課程修了〔博士（文学）〕、転法輪寺住職）
テーマ：『選択集』執筆時における諸処の問題点
--「傍正の義」ってどのように解釈しますか？--
法然の遺した唯一の著書である『選擇集』。その草稿本とされる「廬山寺本」は、『選擇集』執筆時の状況を垣間見ることが出来る貴重名資料として珍重されている。その紙面上に見られる様々な書き込みや修正作業の痕跡は、８００年前の情景をありのままに現代に伝えてくれる。
今回の発表では、それらの中でも教義的な内容に影響し、かつ内容的理解が難しい箇所に関して、その不具合を招いた根拠となっている状況を「廬山寺本」から想定される撰述時の状況から解明していく。
『選擇集』第四、三輩章には「廃・助・傍」の三義が説かれる。『無量寿経』三輩段のそれぞれに、諸行と念仏が説かれていることから、なぜ念仏のみを取ると言うのかと言う事に対する見解が私釋段の中で説かれているのである。その第一廃立の義と第二助正の義に関しては、『選擇集』の内容によって明確に理解することが出来る。ところが、第三傍正の義に関しては、「念仏と諸行それぞれに三品あることを明かす」という内容のみが記されており、それをそのまま「傍正の義」という第三の義に当てはめているため、その主旨を明確に理解することが出来ない。
そこで、法然の他の遺文の内容的共通部分を見ていくと、『逆修説法』においては、同じく念仏と諸行が説かれる理由について、三義を挙げ、その中で「初めが正、後の二義は傍」として、『選擇集』における廃立・助正に当たる義と傍正の義とを別次元の見解として区別している。さらに『無量寿経釈』では、「但念佛、助念佛、諸行往生（但諸行）」の三義を説き、その三義に「傍正の義」を当てはめるのである。
つまり、『選擇集』よりも以前に説かれた『無量寿経釈』や『逆修説法』では、明確に理解できる傍正の義が『選擇集』において理解不能となってしまったのである。
その理由としては、本来、同内容であるはずの三輩段の解釈を、第五念仏利益章にも記したために、『選擇集』においては四章、五章の二箇所に分けて説かれてしまったことが考えられる。
このような見解は「廬山寺本」の状況と他の法然遺文の比較作業を通さなければ見出すことが出来ない事である。現に、聖冏の『決疑鈔直牒』においては、『選擇集』で「廃・助・傍」の三義が並列に説かれているために、それぞれの対象者が異なるとして別の機根として数えている部分が見られる。
以上の如く、『選擇集』の執筆状況を知る作業は、法然の教義を知る上で重要な研究で有り、その手がかりを伝える文献こそ「廬山寺本」なのである。今回の発表では、その一端をお話しさせていただいた。
＜各班進捗状況報告＞
【第一部門 法然文献班 元亨版『和語燈録』本文・現代語訳対照本作成】
発表者：伊藤真宏研究員
前回から六回の研究会を開催。伊藤訳の検討と入力作業確認。
【第一部門 法然文献班 桑門秀我『選択本願念仏集講義』現代語訳】
発表者：本庄良文研究員
紀要第2号の作業点検と今後の方針の検討。
【第一部門 『逆修説法』班 『逆修説法』諸本対照本作成、古本『漢語燈録』中心とする本文批判】
発表者：岩谷隆法嘱託研究員
前回から一回の研究会開催。担当者による当該箇所の訓読と現代語訳作業。
【第二部門 『摧邪輪』班 明恵『摧邪輪』寛永版訓読・現代語訳】
発表者：米澤実江子嘱託研究員
「第五の批判」の付注、現代語訳作業に従事。
【第二部門 門下班 門下研究目録作成】
発表者：伊藤真宏研究員
著作論文目録作成にかかる入力作業を個々で進行中。
【第二部門 中国関係班 道綽『安楽集』解読・現代語訳・文献批判】
発表者：永田真隆嘱託研究員
前回から三回の研究会を開催。第三大門の第３～４の訳註作業。公表についての打ち合
せ。
【第三部門 伝宗伝戒班 『真葛伝語』諸本蒐集および教理的根拠の探索】
発表者：高津晴生嘱託研究員
前回から二回の研究会開催。「気息伝」の本文入力と現代語訳の確認作業。「五重自証の法」の授受の意義の確認。
