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仏師・僧侶 前田 昌宏さん

(文学部仏教学科1996年卒業)

目に見えぬ縁に結ばれ、仏師の道を歩む

仏像盗難事件がきっかけ

 和歌山県のお寺に生まれた前田昌宏さんは、佛教大学を卒業して3年後、仏師として独立した。仏像を彫る職人だ。佛教大学宗教文化ミュージアムの特別展のための仏像を制作しながら「木と向き合い、彫刻刀を動かしているのがすごく幸せ」と物静かに語る。前田さんが仏師を志したのは、中学2年の時のある「事件」がきっかけだった。
 その日の早朝、いつものように寺の大師堂にお勤めに行くと、あるべき薬師如来像がない。当時、周辺で仏像の盗難が相次いでいた。警察官が「返ってこないだろう」と言うのを聞き、「僕が彫る」と住職である父たちに宣言した。
 進学した高野山高校で、仏師でもある美術の先生に出会う。「仏像を彫る姿を見て、こういう仕事ができたらいいなと思いました」。先生の工房には、腕や顔が欠けた仏像が修理を待って並んでいた。「皆が仏像に手を合わせる姿を見て育ったこともあり、仏像が朽ちてしまうのは嫌だな、と感じましたね」
 仏像彫刻を先生から教わり、薬師如来像を高校の3年間で作り上げた。仏師への想いは強くなっていった。

別科(仏教専修)に入学

 父も佛教大学出身。前田さんも当然のように佛教大学別科(仏教専修)へ進んだ。2年間、集中して修行するコースだ。僧侶の免許に当たる浄土宗教師資格も取得する。「浄山学寮という寮の2人部屋に入って共同生活を送り、法要の作法などを徹底的にたたき込まれました。今でも付き合いがある友人がたくさんできましたね」
 別科と同時に通信教育課程にも入学し、別科修了後に通学課程の文学部仏教学科に転籍した。「大学生をやってみたくて。高校も別科もとにかく厳しいところだったので、普通の学生生活も味わってみたかったですね。でも、身に付いた規則正しい生活が崩れることはなかったです」。朝4時に京都市中央卸売市場に行き、トラックに青果を積んで運ぶなどのアルバイトや、サークル活動に励んだ。「できることは精いっぱいやりました」と振り返る。

「仏像に触れてほしい」

 卒業後も京都に残り、トラック運転手の仕事を続けて独立資金をためた。やがて、学生時代の人とのつながりがまたつながりを生み、仏師の仕事を得ていく。インドの仏心寺の本尊を無償で彫ったことがきっかけで、神戸市で仏像教室を開くことにもなった。「人とのつながりが財産だなって思います」。約15年前に始まった仏像教室は8カ所に増え、佛教大学オープンラーニングセンターでも仏像教室の講師を務めている。
 「泥棒には感謝できませんが、目に見えないご縁が結ばれたんだなと今になって思います」。そう語る前田さんにとって、仏像とは何だろうか。「身近な感じがしますよね。仏像を彫る過程でいろいろな方に触れてもらうようにしていますが、見て、触れて、何かを感じてもらえたらと思います」

前田 昌宏(まえだ まさひろ) 1973年和歌山県生まれ。91年、佛教大学別科(仏教専修)に入学すると同時に通信教育課程文学部仏教学科に入学。92年に浄土宗教師(浄土宗僧侶)資格を取得、93年に別科を修了し、通信教育課程から通学課程の文学部仏教学科に転籍した。96年卒業。卒業後の99年に仏師として独立し、現在に至る。浄土宗浄土院仏師僧。浄土宗芸術家協会常任理事。妻と息子2人の4人家族。

(2021.12)

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