日中共同ダンダンウイリク遺跡学術調査

タクラマカン沙漠に残存しているダンダンウイリク遺跡は、シルクロード学の原点ともなった古代仏教都市の遺構である。 この遺跡は、スウェーデンの地理学者で探検家のスヴェン・へディンによって1896年に発見されて以来、何度か調査隊がその地に足を踏み入れたが、大沙漠の奥深くに位置すること、未開放地域であることなどの理由で本格的調査は行われていなかった。

キジル千仏洞修復、ニヤ遺跡調査と日中双方が長年にわたって新疆の世界的文化財保護研究事業を推進してきた実績から、ダンダンウイリク遺跡の総合研究を目的として「日中共同ダンダンウイリク遺跡学術研究プロジェクト」(佛教大学内ニヤ遺跡学術研究機構・新疆ウイグル自治区文物局・新疆文物考古研究所主催、中国国家文物局批准、佛教大学アジア宗教文化情報研究所助成)が2002年より開始された。

ダンダンウイリク遺跡は、海抜が1250m前後、寺院址・住居跡など数多くの遺構が東西約2km・南北約10km(周辺含む)の範囲に分布し、収集遺物などから8世紀に放棄されたと推測されている。

壁画の発見

「西域のモナリザ」とも称される如来仏画像

2002年に実施された「日中共同ダンダンウイリク遺跡予備調査」で、中国側隊員が露出した壁画を発見。保護のため緊急発掘を行うと、寺院の東壁が外側に倒れていた。慎重に砂を取り除くと次々と壁画が現れた。

壁画は、内容(仏・菩薩・供養者・動物などと豊富)・量(約10cm²と広大なもの)・質(高度の洗練された表現力)ともに優れ、西域仏教 はもとよりアジア古代仏教絵画史の研究に欠か せないとの判断により、日本側は日中共同ニヤ遺跡学術調査の関連事業として研究を本格的に実施することを提案し、中国側と合意した。

この後、調査は第四次まで行われ大きな成果をあげた。2006年には、ダンダンウイリク遺跡は中国政府により「全国重点文物保護単位」に格上げ指定された。これは、日中隊の調査研究に対する高い評価の表れでもある。

調査組織
日本側

水谷幸正・福原隆善・中井真孝・真田康道・安藤佳香・小島康誉・大北裕生・舘憲雄・孫躍新・近藤謙(佛教大学)、井上正(飯田市美術博物館)、沢田正昭(国士舘大学)、浅岡俊夫(六甲山麓遺跡調査会)、安田順惠(奈良女子大学大学院)、岡岩太郎・亀井亮子(岡墨光堂)、辻本与志一(アート・プリザベーションサービス)、富澤千砂子(六法美術)、乾哲也・奥山大石・村上智見・竹下繭子(奈良大学大学院)、岸田善三郎・岸田晃子・清田怜子・中造和夫・高田和行・高田洋子(第一次予備調査隊)

中国側

盛春寿・李軍(新疆ウイグル自治区文物局)、張玉忠・劉国瑞・張鉄男・佟文康・阮秋栄・尼加提・托呼提・阿里甫江(新疆地区文物考古研究所)、馬世長(北京大学)、鉄付徳(中国国家博物館)、買提哈斯木(和田地区文物局)、劉勇・何林(亀茲石窟研究所)、呂宗宜・李東・韓善鋒(中国石油東方公司)

調査経過
2002年
駱駝で到達(日本人として初到達)、露出した壁画発見、保護のため緊急発掘

03年
保護研究協議書に調印、国家文物局より許可取得

04年
保護研究原案を策定。国家文物局専門家委員会で承認を得て保護処置開始。第二次調査、南部遺構群確認、NHKと中国中央テレビ同行取材

05年
壁画研究継続。保護処置をおえた「西域のモナリザ」などの壁画を「新シルクロード展」(東京都江戸東京博物館・兵庫県立美術館・岡山市デジタルミュージアム)に出陳。佛教大学でシンポジウムと写真展開催。NHK「新シルクロード」で調査の一部が放映される。 第三次調査。円形遺構など多数の遺構登録、約7,500ポイントを光波測量、小河墓遺跡踏査、タマゴゥ仏寺参観

06年
「全国重点文物保護単位」に昇格。第4次調査、寺院址発掘

07年
『日中共同ダンダンウイリク遺跡学術調査報告書』出版
佛教大学で日中共同シルクロード学術研究国際シンポジウム開催

09年
北京大学で「漢唐西域考古-ニヤ・ダンダンウイリク国際シンポジウム」を開催
『ダンダンウイリク遺跡-中日共同調査研究報告』(上記の中国語版)出版

調査簡史
  • へディン隊(1896年):遺跡発見。
  • スタイン隊(1900年):発掘、「桑種西漸伝説」の板絵などを収集、概要が明らかに
  • トリンクル隊ボスハード(1928年):踏査
  • 新疆文物考古研究所隊(1997年):所在が不明確になっていたが再発見し位置を確認
  • 某外国人隊(1998年):非正規発掘
  • 日中共同ダンダンウイリク遺跡学術調査隊(2002年~):本格調査。全容を明らかに
成果
  • 寺院・住居・円形城壁・炉・窯・果樹園など70ヶ所の遺構と遺物散布地約30ヶ所を確認し、GPSなどで経緯度を登録し、遺構分布図を作成した。
  • 光波測量により、各遺構・周辺地形図を作成した。
  • 大量の国宝級壁画を発見。保護のために緊急発掘し、保護と研究を行った。
  • 銅貨など多くの遺物を収集し、研究を開始した。
  • 中国側は国家文物局の許可を得て、数ヶ所の寺院址を試掘。状況確認を行い内容豊富な壁画を撮影し、その後保護のため埋め戻した。
  • 西域における"仏教聖地"としての全容をほぼ把握し、基礎調査段階を完了させた。

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