2021年、佛教大学総合研究所は開設30周年を迎えました。

佛教大学総合研究所 30年の歩み

佛教大学 学長伊藤 真宏

佛教大学総合研究所
開設30周年によせて

総合研究所が30周年を迎えました。この間、研究所の運営に携わってくださった、すべての方々に感謝申し上げます。

総合研究所は1991年(平成3年)4月、それまであった、仏教文化研究所、仏教社会事業研究所、歴史研究所、心理学研究所、社会学研究所を統合して誕生しました。当時「学際的研究」ということがさかんに言われ、特定研究テーマ素材に関して、学問領域を超えてさまざまな研究者が参画し、スケールの大きな成果を目指したものだったと思います。

浄土宗僧侶の養成が出発点だった佛教大学も、学部学科の増設により、仏教学から文学、福祉学、社会学、教育学へと裾野を広げる中で、それに伴う研究所が附置され、専門領域も細分化されていきました。それぞれの研究成果はもちろん素晴らしいものでしたが、裾野が広がった「佛教大学」の学問は、隣接分野でも相互に関係なく研究されていることへの疑問などもあり、そういった事柄と、学際的研究の意義とが相まって、総合研究所の誕生は必然的なものであったと思います。

研究所に専任研究員をお迎えすることも当時の本学では新しい方向性でしたが、何より共同研究班によるプロジェクト研究が、「総合研究所」という名にふさわしい学際的研究の真骨頂だったと思います。

最初に設けられた共同研究、「東西の死生観」には、当時まだ大学院生であった私も、研究補助員という形で携わることができました。言うまでもなく仏教はインドから東アジア、日本へと広まった思想です。仏教を基盤とした東アジアや日本の死生観が、キリスト教を基盤とする西洋の死生観と比較検討され、議論されていく様子は、まさに地球規模の議論でありました。著名な先生方が目の前におられ、議論を目の当たりにできたことは、授業で講義を聴くのとは全く異質な経験であり、私の財産と言えます。つい先日のことのようにも思えますが、あれから30年の月日が経ってしまったと思うと、「隔世の感」という言葉がぴったりします。

その後もおりおりのプロジェクト研究に嘱託研究員として携わらせていただきました。研究所の歴史が私の歴史と重なっていることを思うと感慨深いものがあります。これまでも大学の研究機関として、あるべき姿を自問しながら、その成果を教育や社会に還元すべく、たゆまぬ努力を続けてきた総合研究所ですが、今後も時代に即応した研究活動を展開し、その成果を広く社会に還元できるよう努めてまいります。

総合研究所 所長野﨑 敏郎

総合研究所の30年と
佛大アカデミズム

総合研究所30周年

2021年3月末をもって、佛教大学総合研究所が発足してから30年の節目を迎えました。
本研究所の30年の活動を振りかえると、本研究所が体現している佛大アカデミズムの特色が浮かびあがってきます。それは、次の七つの特色としてまとめられます。

  1. 仏教精神の現代的使命

    仏教精神は、万人の救済をめざすものであり、苦難に直面している人々と関わりながら支えることが、その使命の根幹にあります。本研究所は、仏教を中心とし、他の諸宗教も含めてそのありかたを問うとともに、さまざまな人々の困窮や困難などに寄りそいながら、過去から現在に至る社会の変容の中で、様々な営みを行ってきた人々の姿に関する研究活動をすすめてきました。

  2. 厳密な実証と歴史検証

    本研究所の研究成果には、第一次史料や調査結果や基礎文献を網羅的に検討したうえで、研究対象の歴史的背景や生成過程を究明し、対象の歴史的定位を明示しようとする厳密性がしめされています。
    とくに、古い時代の事象にかんしては、基礎文献とされているのが、後世の者たち―しばしばその時代の権力側にいた者たち―によって著された史書等であるケースが多いので、そうした文献にたいする周到な史料批判・文献批判もしめされています。

  3. 現場主義

    研究活動において、《そこに足を運ぶ》ことによってはじめてみえてくるものがあります。本研究所の刊行物には、研究者たちが、国内外の地域の現場、教育活動・医療活動等々の現場、あるいは民俗芸能が披露される現場に立ち、そこで奮闘する人々と苦悩を共有し、彼らとともに考えた成果がしめされています。

  4. アクチュアリティ

    学問は、直接なにかの《役に立つ》ことをかならずしも目的としていませんが、一方で、たとえ高度に抽象的な理論研究や法理研究等々であっても、それが生(なま)の現実とどう関連づけられるのかという視座が、研究者たちによって明示されています。研究対象が歴史事象であっても、それが現代に生きているわれわれにとってどのような意義を有するのか、遠い異国の事象であっても、それが日本に生きているわれわれにとってどのような自己省察の素材たりうるのか―こう問いかける姿勢があり、ここには真摯なアクチュアリティ―われわれがいま直面している問題への接点―があります。

  5. 大学教育への貢献

    本研究所所管の近年の共同研究のなかには、大学教育のさまざまな局面を研究対象としたもの、また大学教育が今後どうあるべきかを問いかけるものがあります。本学の教育活動そのものを、研究者の醒めた目で検証し、学生層の変化を捉えつつ、教育活動の向上・刷新を図っていくことは、本研究所の重要な任務です。

  6. 国際性と学際性

    共同研究のなかには、諸外国の研究者との協力のもとですすめられているものがあります。日本のアカデミズムにおける研究手法と、他国におけるそれとは、しばしば大きく異なっています。また学際的な研究の場合、異なる研究領域で活動している研究メンバーのあいだで、やはり方法論をめぐる問題が顕在化します。そしてそのうえで充実した研究交流を図っていくところに、本研究所の活動の醍醐味があります。

  7. 闊達な討議

    たんに異なる国の研究者を集め、あるいは専門の異なるメンバーを集めたというだけでなく、本研究所所管の共同研究においては、視座も方法論も異なる人々による闊達な討議がなされ、また相互理解が深められてきたことが重要です。このこと自体が、本学の研究者たちにとって大きな知的財産となっています。

佛教大学名誉教授(前学長)・
元総合研究所 所長
田中 典彦

総合研究所開設30周年によせて
とりとめもない話の中から

総合研究所?「総合」とはどういう意味なのか?というのが創設当初からの問題であった。
研究所の運営に関わってきた者が集まれば、いつも話の中にでてきたものである。それまで別個であった五つの研究所が寄せ集められてこの研究所ができたという経緯があった。その意識を払拭することこそが「総合」という表現の中に意図されていたはずだったのに。

当時、学際研究という言葉が流行していたように思う。異なった学問領域の研究者が関わることであるが、これとは違うのか?という議論もあった。研究班の中には当初より研究組織としては既にこの形を取っていた班もあったが、最終的には、研究の寄せ集めのようになるケースが多かったように思えた。「学際研究というのは日本の学者には難しい、余程主任となる人のリーダーシップがなければ」いう意見もあった。

「仏教を中心に人文および社会科学の領域にわたって総合的な学術研究を行う」が研究所の目的とされていた。それに沿って研究所をまとめよ、というのが学長の指示であった。
各研究班の中でもそうであったのだと思うが、本学の先生方や他の研究機関からの先生から、「仏教とは何なのか」「仏教ではこの問題はどう考えられるのか」という問いがよくなされた。たまたま私が仏教学科に所属している所長であったからかもしれないがよく質問されたものである。佛教大学の研究所であるから、仏教で総合する研究に加わるという意識をもっていただいていたからであろうと思う。ある時、自然保護が話題となった。「仏教では自然はどう考えられるか」「じねん」とよんでねー」、とりとめもない話の中から大きなテーマが飛び出た。後にドイツからも有名な学者がこれに加わって「仏教と自然」研究班が始められたといったこともあった。それに気をよくした私は、『総合研究所報』に、建学の精神である仏教と本学が展開している教育研究とを有機的に総合することを目指す研究が本研究所に求められていると記した。

文学部の諸領域においては仏教人文学、教育学部では仏教教育、社会学部では仏教社会学、社会福祉学部では仏教福祉そして保健医療技術学部においては仏教看護学の構築といった新たな視点からの教育研究の確立を目指すと。

いろいろな大学のいろいろな領域の研究者と談笑ができたことは大変有意義であった。
今後も佛教大学でしかできない研究を通じて、人間の種々の課題に解決の示唆を与えることのできる研究所であって欲しいと思う。

共同研究制度の変遷

1992(平成4)年度~2000(平成12)年度

1991(平成3)年4月に5研究所(仏教文化・仏教社会事業・歴史・心理学・社会学の各研究所)を統合して総合研究所を開設。その目的は既存の5研究所を有機的に統合し、学部学科を越えた研究交流と学際研究を推進することにより、佛大アカデミズムを高揚させることにあった。
総合研究所の中核事業として共同研究を位置づけ、本学の学部学科構成を配慮して、仏教系・人文科学系・社会科学系の3部門体制を構築した。そして、各部門ごとに専任研究員を配置した。初年度は旧研究所からの移管業務と新事業立案に従事し、2年目(1992年度)より共同研究を開始した。

種類
第1部門(仏教関係) 専任研究員:松田和信(研究期間2~3年間)
第2部門(人文科学関係) 専任研究員:北西 弘・青山忠正(研究期間2~3年間)
第3部門(社会科学関係) 専任研究員:藤井 透(研究期間2~3年間)

2001(平成13)年度~2011(平成23)年度

2000(平成12)年度10月、総合研究所開設10周年の総括を経て大幅な制度の見直しを行い、2001(平成13)年度から実施した。

種類
特定研究 特定の課題研究(社会的インパクト、タイムリー性、政策提言の性格を備える、その他運営会議が必要と認めるもの(研究期間3年間)
部門研究
  • 仏教部門
    本学の建学の精神を踏まえたもので現代社会における宗教の機能や仏教思想の意義についての学際的研究(研究期間3年間)
  • 京都部門
    本学の立地する京都という地域の特質を時間軸(歴史)と空間軸(地理的位置)を視野において解明するような研究(研究期間3年間)
  • 生命部門
    本学の建学の精神を踏まえたもので生命科学または生命倫理の発展に資する研究(研究期間3年間)
一般研究 現代において先端的課題となっている研究(研究期間2年間)

2012(平成24)年度~現在

2005(平成17)年度以降数年間にわたって総合研究所のあり方を検討し、「共同研究」の枠組みを継承・発展させることをめざし、制度の部分的変更を行い、競争的外部資金の獲得につなげることをめざす制度とした。なお、『専任研究員』制度は廃止した。

種類
常設研究 本学の学則第1条に規定する目的使命に関連した課題について、長期間継続して取り組む学術研究
プロジェクト研究 次に関連した課題について、到達すべき明確な目標を定めた上で研究期間を3年に限定し取り組む学術研究
  1. 学際的、異分野複合的もしくは先端的な研究で次の3点をすべて含むもの
    1. 本学が特に必要とするか、または取り組むべきもの
    2. 社会的要請または今日的課題等に即応するもの
    3. 競争的資金(科学研究費補助金等)または公的助成金等の獲得を目指すもの
  2. 学部、学科、研究科の単独または共同・連携により、学術研究の高度化、活性化および若手研究者の育成等を目指す研究

総合研究所
特別研究員制度について

佛教大学大学院博士後期課程単位修得満期退学者、修了者に対し、研究者としての更なる成長を支援するため「特別研究員」制度を設けています。
2001年度に総合研究所研修員の名称で始まり、2010年度から総合研究所特別研究員に名称を変更し現在に至っています。
特別研究員は、総合研究所を研究の足場として、個人研究を進め、学会発表や論文投稿などさまざまな場所で大きな成果を残しています。

2001(平成13)年度~2009(平成21)年度

名称:総合研究所研修員 のべ68名

2010(平成22)年度~現在

名称:総合研究所特別研究員 のべ152名