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07年日本西蔵学会報告

 

第55回(2007年度)の日本西蔵学会大会が、10月27日(土)の午後に京都の大谷大学で開催されました。発表内容はざっと次のとおり(いつも通りダイアクリティカルマークは省略、そして偉い学僧の皆さんを呼び捨てにすることも許して下さい)。尚、日本西蔵学会は、来年度の総会で異存が出ない限り、日本チベット学会という表記に変わるそうです。

 ■ツォンカパ著『密意解明』における菩薩の修行階梯 [太田 蕗子(大谷大学大学院)]

 

 この『密意解明』というのは『入中論』の注釈書です。ここでツォンカパはその内容を忠実に解説しつつも独自の見解もあらわしている。ツォンカパが修道論において菩薩はどのように世俗にたいして考えを展開しているのか、という問題を太田さんは第六地から第七地への展開の中に示される「滅尽定」と名付けられる瞑想の内容に着目して考察しています。

 ■Bhaviveka と Tarkajivala [安間 剛志(京都大学大学院)]

 

 インド仏教中観派の論師 Bhaviveka はその主著の『中観心頌』に対して自注の『タルカジヴァーラ』を著したとチベットでは伝えられます。けど、この元のものと注釈書が同じ著者によるものかどうか、という点は疑問視されています。そこで安間さんは、まずチベット宗義文献での Bhaviveka の位置付けを吟味して、そしてその中でも特に二諦説に注目して両文献を吟味しながらこの問題に挑戦しています。

 ■古チベット語サイコロ占い文書の研究 [西田 愛(神戸市外大大学院)]

 

 敦煌文献や中央アジアから出土した古チベット語文献の中には、サイコロ占いの卦文が書かれたものが数種発見されますが、それがどのような文献であるのかということを研究したものです。ここに書かれているチベット語は極めて難解で解読が難しいのですが、西田さんは次のようなことを解明しました。卦文を分析してみると吉凶を幾つかの段階に整理していること、そしてその吉凶には特定の尊格との対応があること、そしてサイコロの目の出方とその吉凶との関係は中央(「ポタン」と表現されているようです)が年ごとに決めているようだ、という事などです。

発表風景

■明代の雲南麗江ナシ族・木氏土司とチベット世界との関係 [山田 勅之(神戸大学大学院)]

 

 チベット語では「ジャンの国」と呼ばれて来たナシ族がどんな風にチベット世界と付き合ってきたのか、という点を、パタンやリタン更には中甸(最近シャングリラと呼ばれている)の地域への進出の歴史や、カルマ派との関係、そして麗江版カンギュルつまり後にリタンに運ばれてからはリタン版と通称されるカンギュルの開版事情等々を考察することによって考えようという研究です。

■チベット中観思想における時間論の展開 --「刹那」の概念を中心に -- [根本 裕史(広島大学大学院)]

 

 サキャパンディタはその著『リクテル』の中で、刹那が部分を持たない存在であることを述べていますが、これはチャパ達つまりカダム派の論者たちが刹那は分割可能である、とする意見を批判したものです。チャパたちの意見は、空間における極微論批判の構造を利用して、つまりアトムは他のアトムと接触しているのだから一つのアトムの上部分とか下部分とかに分割して考えられるんだから時間の細小単位の刹那も分割可能だ、という考えです。これとサキャパンディタの考えとの違いがどこに起因するのか、という研究です。実に話しが細かい。けど実に大きな問題でもあるのです。

■rang rig に関するケートゥプジェの解釈 [村上 徳樹(東京大学大学院)]

 

 rang rig というのは、何らかのものを認識している主体を認識している主体ということです。話しがややこしいけど、極端に簡略化して言うと「わたし」を認識している私のことです。自分の認識をどんな風に客体視するのかの構造です。すでにインド仏教論理学のダルマキールティがこの点を詳細に議論しているのですが、それをツォンカパの弟子のケートゥプジェさんが極めて論理的に掘り下げて解説しているのです。不真面目な私は聞いていて、合わせ鏡に写っている自分を見ている自分を思い起こして勝手に頭がくらくらしてしまいました。

■チベット建築に於ける"屋根・女墻(ペンマ墻)・窓・門・戸"等について -- チベット語の語彙によるチベット建築の考察・その2 [大岩 昭之(東京理科大学)]

 

 大岩先生の研究はいつもながら、数種の辞書に載っている建築用語を数量研究していくという研究で、私にはその方法の是非がよく理解出来ないのですが、チベット地区で撮ってこられた写真をご紹介しておられたので興味深く聞きました。古いチベットの建物には深い味わいがあります。どんどんそんな景色が無くなっていくラサの景色を悲しく思うのは私だけではないでしょう。

■報告)Otani Unicode Tibetan Language Kit for MacOS X の開発について [大谷大学真宗総合研究所西蔵文献研究班](福田洋一/野村正次郎/三宅伸一郎/Steve HARTWELL)

 

 この報告はまさしくグッドニュースです。マックの最新OSの 10.5 のパンサーにチベット語が標準装備になったという報告です。しかもこの学会の日の前日が発売日だったので会場でデモンストレーションが行なわれました。福田さんや野村さんたちが係わってきた大谷大学のラングエージキットがマック本体に装備されているのです。フォントはユニコード化され今後はどのシステムを使って書いたチベット文字文書も他のシステムでも読むことが出来るし検索も可能です。これは凄い。各種のデータベースもユニコード化されていくと、例えばウインドウズのOSからアクセスしてもチベット文字で表記も検索も可能なのです。時代は変わりました。

発表風景

懇親会

 

 6時から開催された懇親会も楽しいものでした。全体的にすごく若くなりました。この若い研究者達がこれからの日本のチベット学を支えていくのです。頑張ってね! ラサから来た絵描きのウゲンナムゲンさんや京都在住のトゥプテンガワ師も懇親会に参加していました。
 写真はセラ僧院チェーパ学堂ゲシェのガワ師と話しをするデプン僧院ゴマン学堂日本支部の野村さん、横でちょっと控えめな態度なのはハンブルグから一時帰国中の加納さん。

発表風景