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モンゴル学会報告

 

日本モンゴル学会2003(平成15)年度秋季大会が11月15日(土)の午後に大阪国際大学の枚方キャンパス3号館を会場として開催されました。今年の秋期大会は第一部の研究発表と第二部の講演の二部構成でした。書籍販売にタカヨシトレーディングの社長夫妻が来てました。社長にだまされてCDを買ったのですが、これが結構よかった。さて、右の写真は講演ニ番目のハスエルデニ教授。宮様みたいな顔してました。ここで問題:写真の右下端っこに写っているハ○頭は誰の後頭部でしょうか?分かる人は通です。(答えはこのページの末尾に)

発表会場

■佐藤暢治「消滅の危機にある高李保安語の現状」

 さて、研究発表ですが、先ず最初の発表は広島大学大学院講師の佐藤暢治さんの発表「消滅の危機にある高李保安語の現状」と題する発表でした。保安(ぼうなん)族というのは甘粛省臨夏回族自治州に住んでいるのですが、以前は青海のほうに住んでいたそうです。その中でも今回取り上げられた高李(ごうり)村に住む保安語は従来あまり研究されなかったということです。世代による継承状況等についての現地調査結果の報告でした。興味をもったのは以前住んでいた青海時代のアムド方言のチベット語からの借用語を保持している点でした。

■堤一昭「『元典章』等にのこされたモンゴル高官任命書--モンゴル時代命令文研究の一環として」

 次の発表は大阪外国語大学助教授の堤一昭さんによる「『元典章』等にのこされたモンゴル高官任命書--モンゴル時代命令文研究の一環として」と題する発表。 ウイグル文字パスパ文字チベット語等様々な種類で残存するモンゴル時代の命令文の中、今まで研究が手薄だった漢文典籍(『元典章』『憲臺通紀』『南臺備要』)中のモンゴル命令文を研究したもの。モンゴル時代の命令文の書式分析をしてそれらが三つのタイプに分けられるということを報告されてました。

■楊海英「アルジャイ(阿爾塞)石窟出土モンゴル語文書に関する初歩的調査報告」

 3番目の発表は静岡大学助教授の楊海英さんの「アルジャイ(阿爾塞)石窟出土モンゴル語文書に関する初歩的調査報告」と題する発表でした。オルドス地方で黄河がぐうっと彎曲しているその黄河に面しているオルドス西北のオトク旗のアルブス山(ヨロレイヒ〜のアルプスではありません。済みませんしょうもない事言って)の山腹に発見されたアルジャイ石窟には様々な重要な文物が奇跡的に残されていることが分かりました。現地で1991年から調査を続けられている発表者が今回は出土文書の整理をされてその概略を報告されました。びっくりなのはモンゴル語文書だけではなくチベット語文献、しかも仏教文献を含む大量のものが残存しているという点です。

■杭愛「『元朝秘史』201節のeme minu domoqciと云う言葉について」

 4番目の発表は内蒙古師範大学教授のハンガイ氏による「『元朝秘史』201節のeme minu domoqciと云う言葉について」という発表でした。『元朝秘史』がモンゴル語を漢字で音写した文献だということは広く知られていますが、元のモンゴル語がどういう表現であったのかというのはいろいろと議論があるのです。今回の発表は音韻的な検討やウイグル式モンゴル文字の表記の問題のみではなく発言者の性格等に踏み込んで、『元朝秘史』201節の「額蔑米訥...」の文章は「私の妻は長話が好きで云々」というような意味ではなくて「私はもとより疾しい人間で云々」というように自分のことを戯れて言っていると解釈する、という発表でした。

(講演)Luvsanjav CHULUUNBAATAR「モンゴル人の使用してきた文字の研究の問題について」

 講演の部の一番目はモンゴル国立大学教授で同大学のモンゴル言語文化学院長のチョローンバータル氏による「モンゴル人の使用してきた文字の研究の問題について」と題する講演でした。1930年代に6回ほど刊行された『僧侶の雑誌』という雑誌はチベット文字とモンゴル文字の二つの文字並記で表記されていたそうです。これはチベット文字なら問題なく読めるけれども(そりゃお経を唱えたり問答をしたりはチベット語ですから)文字(モンゴル文字)をすらすらと読めない僧侶たちの読解力を考慮したものと考えられるそうです。1930年代後半はモンゴル文字普及運動の時期だったのです。教養人は僧侶の中に多く、けど僧侶を社会的利益のある労働に従事させる必要も政府にはあり困ったのでしょうね。発表によると1911年の民族解放運動の指導者や1920年結成のモンゴル人民党の大部分が学識と能力のある僧侶たちであったということでした。『僧侶の雑誌』にはそのような時代背景があるとの内容でした。実に興味深い講演でした。チベットでそんな時期はあったのでしょうか?同じ時期のチベットカム地方のチベット人による共産党の活動の実体を詳しく調べる研究者が必要だな、という感想をこの発表を聞いていて思いました。

(講演)哈斯額爾敦「現代の中国領内のモンゴル語の研究の概況」

講演の二番目は中国中央民族大学蒙古語言文学系教授のハスエルデニ氏による「現代の中国領内のモンゴル語の研究の概況」でした。この講演は研究の概要をまず、各所の研究機関の概要、そして主要な研究雑誌の刊行の状況、現役研究者の活動を世代に分けて紹介され、最後に重要な出版物の数々を重要度を交えて報告されました。私のようなモンゴル学初心者にとって特に意義ある講演でした。どの辞書とどの目録を注文したらよいかよく分りました。このページの上にハスエルデニ教授の写真がありますが、実に上品な感じの爺様でした。

懇親会

 

6時からは懇親会が開かれ、賑やかに歓談が続きました。モンゴル学会はチベット学会と違って留学生の参加が多いので(そりゃ絶対数が違うさ)平均年令が若い。さすがモンゴル学会だと感心したのはクミス(馬乳酒)が出て来た事でした。ラベルを見たら京都伏見の「玉乃光」からペットボトルで発売されているのです。(会社のホームページを見たら正確には「ストロングクイミス」という商品名で牛乳酒だそうです)こんなのあったんだ。来年度春期大会は東京の亜細亜大学で5月の第3土曜日とのこと。さて、冒頭のクイズの答えは日本モンゴル学会会長の若松寛先生の後頭部でした。

発表会場