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モンゴル学会報告

 

日本モンゴル学会2002(平成14)年度秋季大会が11月16日(土)の午後に龍谷大学の大宮学舎清和館3階を会場として開催されました。一般研究発表に先立って今年の夏にウランバートルで開催された第8回国際モンゴル学会の報告が東京外大の中見立夫先生や岡田和行先生、大阪外大の橋本勝先生によって報告されました。チンギスハーン生誕840年記念学術大会(政府主催)とかレ−リヒ記念シンポとかの相乗り企画もあったそうです。発表者のリストの中にガンダン僧院で知り合いになった ソニンバヤル師 の名前を発見して嬉しくなりました。

発表会場

■手塚利彰「アルタン=ハーンの法典について」

 さて、研究発表ですが、先ず最初の発表は佛教大学大学院の手塚利彰さんの発表「アルタン=ハーンの法典について」と題する発表でした。手塚さんはチベットの法律文書を専門とする研究者です。その経験を活かして今回は、チベット文で記された当該の写本の吟味を試みられました。この文書ではアルタンは「観音の化身」と描写されているそうです。それにしても法典の内容は家畜に関する罰則や婚姻成立の条件と嫁の所属の問題とか、面白そうな内容ばっかです。いちどじっくり読んでみよう。

■永井匠「隆慶和議以降のアルタン=ハーンと右翼モンゴル諸候」

 次の発表は早稲田大学の永井匠さんによる「隆慶和議以降のアルタン=ハーンと右翼モンゴル諸候」と題する発表。右翼と言っても街宣車で走ってる人達ではありません。ダヤン=ハーンの頃に作られたモンゴルの行政区分です。アルタン=ハーンの孫にあたるダイチン=エジェイの事件をきっかけに明との間で取り交された和議を巡るそれぞれの思惑について研究したものです。あらためて感心するのは、漢字文化圏の官僚たちの上秦書類が見事に記録保存(アーカイブ)されている点です。チベット語、モンゴル語、満州語等の残存文献のアーカイブが是非必要です。

■シンバヤル「モンゴル書面『ゲセル』とフフノール・モンゴル『ゲセル』との比較考察」

 3番目の発表は大阪外大大学院のシンバヤルさんの「モンゴル書面『ゲセル』とフフノール・モンゴル『ゲセル』との比較考察」という題の発表でした。用語が最初は分からなかったのですが、フフノールモンゴルつまり青海に住むモンゴル人がチベットのケサル王物語りの語り物をチベット芸人から聞いてそれをモンゴル語になおしたものが元になって北京木版ゲセル等の書面ゲセルになったのではという発表でした。

■楊海英「近年発見モンゴル語写本とその意義について、オルドスの事例から」

 4番目の発表は静岡大学の楊海英さんによる「近年発見モンゴル語写本とその意義について、オルドスの事例から」という発表でした。近年盛んに写本の公刊を続けておられる発表者ですが、その活動の意義付けをその古写本発掘の経緯や問題点を整理する形で提示されていました。ソビエト時代や文革時代を経て生き残った写本の体系的な整理と資料の蓄積がモンゴル研究をモンゴル自身からの視点で構築しなおす作業の基礎に据えられるべきであるというのが発表者の意見でした。

■近藤和正「フーミーの技法とその客観的記述について」

 驚異的であったのは、5番目の研究発表、亜細亜大学の近藤和正さんの「フーミーの技法とその客観的記述について」でした。フーミーの発声原理を音声スペクトルで明らかにし、さらに咽詰め発声やカルグラ−発声の時の声帯と仮声帯の動きを高速度カメラで捉えて発声のテクニックを示し、さらに共鳴部の調節をレントゲン撮影でしめしながら鼻孔や口腔の動きを説明されてました。聞いていて感じたのは、この方法でトゥバの「フメイ」との違いも明確に記述できると思いました。今回はされてませんでしたが、次回ぜひお願いします。感動的な発表でした。

■ブレンジャルガル女史による講演「モンゴルの牧畜と伝統的乳製品」

休憩の後、モンゴル国立農科大学のブレンジャルガル女史による講演「モンゴルの牧畜と伝統的乳製品」を聞きました。アイラグやアルヒやアーロルなど個人的に付き合いのある名前が出てきて楽しかったです。モンゴル語の響きはなぜか心を落ち着かせます。