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「チベットの芸術と文化・その現在と未来(国際チベット研究シンポジウムと学術資料展)」報告

 9月13日から14日にかけて開催された「チベットの芸術と文化・その現在と未来(国際チベット研究シンポジウムと学術資料展)」に参加して発表を聞いてきました。
 基調講演は龍谷大学学長の上山大峻教授で「チベット学の100年」のお話し。その後、13日は第1部と第2部、14日は第3部と第4部というように全体が4部で構成されてました。

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 第1部はチベットの文化・現在と題して現地調査を中心にした研究発表が行なわれました。女子美術大学の中嶋猛夫氏の「チベットと日本の寺院境内考」清水寺の地主神社や滝と本殿との関係をデプン僧院等のチベットの僧院の背後にある岩山等の宗教的な役割等と比較しながら考察したものです。巨大タンカが眼前でご開帳される瞬間の感動は確かにすごいですよね。雲南省迪慶蔵族自治州文化局の蔡武成さんの「雲南蔵族文化芸術及現状」では雲南のチベット系住民の文化に対して様々な角度からの分析を探るものでした。宗教文化/領主貴族文化/民間文化の三種に分けて考えられる、とご発表でしたが、小野田には第2番目が何を指しているのかよく分かりません。大英博物館の M.D.Willsさんの発表「Some Prayer-flags and their Texts」は所謂ルンタの旗に印刷されている文句についての研究です。面白かったです。配られた資料の注記のところに採録されたリファレンス、大いに役に立ちます。東京文化財研究所美術部の中野照男さんの発表「チベット系絵画の薬師十二神将像」は残存する薬師如来曼荼羅の諸例(チベット本土だけではなくハラホト出土のものも含む)の中で、十二神将像に注目してその特徴を考察したものです。面白かったです。

 第2部は大谷探検隊とチベット研究と題した部会でした。今までは中央アジアばかりが注目されてきましたが、広義の意味で考えるとチベット方面に派遣された青木文教師や能海寛師も含まれてよいとも言えます。龍谷大学の能仁正顕氏の「ヤプシプンカン邸とシャル寺版牧象図の紹介」は青木文教師の活動拠点であったヤプシプンカン邸の位置を示す今昔の資料の紹介とシャル寺版牧象図が、ゲルク派で伝承されていく象徴系譜とどのように関係しているかを話題にされてました。研究史をしっかりと踏まえた態度に発表者の力量を感じました。誰かシャル寺のこの壁画の鮮明な写真を撮ってください。能海寛研究会の岡崎秀紀さんの「チベット探検先駆者能海寛と開明的教育の経歴」の発表は若き日の能海寛が目指していた真剣な仏教研究の有り様や彼が主張していた英語教育の重要性とその実践について紹介したものです。探検者としての姿しか知らなかったのでたいへん勉強になりました。龍谷大学の三谷真澄氏のご発表「大谷探検隊とチベット」は青木文教の事蹟を中心としてその将来資料の内訳と新たに龍谷大学に所蔵された資料の説明がありました。同時に展覧もあり見ましたが、小野田を一番引き付けたのは「ラサ鳥瞰図」です。これは面白い。20世紀初頭のラサの姿を考える資料というだけではなくて、鳥瞰図の伝統という美術史の一分野としての関心を強く持ちました。金子民雄先生の発表は取り止めでした。チベットから帰るつもりが間にあわなかったそうです。お会い出来ることを楽しみにしてたので残念でしたが、欠席理由が実に格好いい。さすが。

 第3部はチベット・少数民族の民俗芸能と題されてました。日本大学国際関係学部の高山茂氏の発表「チャムと白馬チベット族の正月儀礼」はたいへん興味深いものでした。彼等の習俗には基本的に仏教の影響がないのです。鬼やらいの儀礼や山自体をご神体と考えるかれらの素朴な宗教観に強い興味を持ちました。こんな所に一度住んでみたい。誰かお金と暇と体力を頂戴!次の発表は中国少数民族舞踏学会(こんな団体あったんだ)の劉金吾さんの「雲南的藏族舞踏(概要)」でした。雲南地区の伝統的な舞踏の数々を紹介しながらその特徴に解説をくわえるお話しでした。1950年代以降の舞踏の歴史にもふれて概略を掴むにはたいへん有意義な発表でした。小野田も個人的にチベット族の足踏み踊りを習って練習しようとはしたのですが、ありゃやっぱ労働歌の延長線上にあると思いました、どうでしょう?

 第4部はチベット資料、デジタルアーカイブの将来と題するセッションでした。早稲田大学の柴田隆史氏による発表とデモンストレーション「立体映像と立体音響を用いた伝統芸能のデジタルアーカイブ」は非常に興味深い経験でした。偏光眼鏡を使ってごく普通のDVDカメラに立体映像用アダプターを付けてチベット族の歌垣や宗教儀礼を記録するという試みです。龍谷大学の若原雄昭氏は「青木文教師旧蔵資料CD-ROM版の試作」と題して展覧された資料や別途に計画し進められていた大谷探検隊収集梵文写本のCD-ROM化の苦労と問題点等を話されました。システムの進化と介在ソフトのヴァ−ジョン進化のズレに話しが及び誰もが同じような悩みがあるのだと思いました。ユネスコアジア文化センターの大貫美佐子さんは「ACCUの無形文化遺産事業への取り組み」と題してアジア太平洋地域伝統芸能・民俗芸能データバンクのウェヴサイトの紹介と今後の計画について報告されました。最後の神内俊郎(日立製作所)の「DIS技術とデジタルアーカイブへの応用」は今回小野田的には最も面白い発表でした。様々なデジタル技術の紹介を見ていると、先ずはデジタル技術によるアーカイブが何よりも大事で、そこから様々な可能性が展開されてくるのだということをひしひしと感じました。

 全部の発表を紹介は出来ませんでしたが、たいへん楽しい時を小野田はすごす事が出来ました。ありがとさん。