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タイペイレポート

■1月18日から21日までの4日間に亘って台北市南港区にある中央研究院(ACADEMIA SINICA)の学術活動中心(Center of Academic Activities)という所で開催された第四回中華国際佛學会議に小野田は派遣され発表を行なった。今回の統一テーマは「佛教輿廿一世紀(The Role of Buddhism in the 21st Century)」。前回までは主催機関の中華佛学研究所と学術提携をしている日本の大学(駒沢・花園・立正・佛教大学)との交流を主軸としたものだったが、今回は前回(第三回)までとは違って発表言語に日本語がなく、漢語と英語のみで学術会議は行なわれた。参加国も英・独・米・印・泰・露・韓・中・台・日と、10ケ国、学術発表した者だけでも35名、参加者全体では150名以上という極めて大規模な国際会議になっていた。

会場外観
ランカスター教授

■主催者の中華佛学研究所というのは台湾で多くの信者を持つ聖厳法師が設立した機関で、日本でいうと大学院大学のような研究所である。会議はその聖厳法師と、カリフォルニア大学バークレー校のランカスター(Lewis Lancaster)教授の主題講演 keynote speech で始まった。世界の仏教学をリードしてきた大学者の講演とあって200人を超す聴衆が集まり盛会であった。

■発表部会は使用言語によって二部会に分かれて行なわれた。漢語の部会でもそれをテーマとする発表者がいたが、主として英語部会での1日目のテーマは「仏典の電子化」の問題である。ここでもランカスター教授がキーパースンとなり、台北で現在着々と進められている大正蔵経のデータベースCBETAや、高麗大蔵経の入力を進めているRITK、そしてパーリ語三蔵の入力を行なっているタイのCSCD、それからチベット語カンギュルやテンギュルの入力を展開するACIP(これらの概要については小野田が去年韓国での国際学会で発表したものを参照されたい)の現状報告が続いた。今回の学会での諸報告も近くCD版あるいはネット版等が準備されると聞いた。(発表された原稿のコピーをすぐに欲しいと希望する研究者の方々は私に連絡してください。)

VIPルームでの小野田

■日本からの出席は駒沢大学の池田魯参教授、花園大学の沖本克巳教授など漢字とか漢文とかがいかにも似合いそうな先生ばかりだと前もって聞いていたのでちょっくら気持ちを緩め、チベット学者は小野田だけだろう、そうかそうか、ここはひとつ端の方で静かーに、無難に、ぼそぼそ発表しといて、後の宴会の時間になったら本格的に活動しよう、と思っていたら大間違い、なんとあの大御所中の大御所ジェフリー・ホプキンス教授(ヴァージニア大学)[写真では手前後頭部の先生]が、最初に通されたVIPルーム(私がVIPだというわけではなくて、提携校の代表だからです)の中でランカスター教授と一緒に座っているではないか?これはえらいことになった。

小野田のもうひとつの誤算は、あらかじめ聞いてはいたのだが、食事がすべて完全にお精進だったことです。けど周りを見ると欧米人インド人漢人を問わず、この学会に集まってくる仏教学者さんたちはほとんどがベジタリアンで、むしろ「だから来た」と言う人までいるくらいでした。研究発表の中にも「動物の生きる権利云々」とかいう発表が続いて、チベットモンゴル文化圏に属する小野田としては居心地の悪い雰囲気でした。肉食人たちは端のほうで「けど、動物の中にだってベジタリアンのもいれば、ノンベジタリアンのもいるんだけどなあ」とかぶつぶつ言いながら過ごしてました。

■今回の小野田の研究発表は英語部会の三日目の朝早くからでした。前世紀の初頭に高まった漢人仏教僧によるチベット仏教への関心と彼等によるチベット仏教探究の歴史を概観するものです。1900年代の最初には、漢人僧侶達の間でもチベット仏教への敬意と関心が強く、特にその僧院教育の精緻な体系と哲学的考察の深遠さを学ぼうとする謙虚な姿勢が存在したのです。その後中国の共産党政権はおかしな方向に行ってしまい、漢人知識人達は奇妙な優越感をもってしまって、チベット問題はどんどん深刻さを増していくことになります。発表後の質議の時間では、ランカスター教授やロンドン大学のSOASに所属するボッキング(Brian Bocking)教授等数人から質問やコメントをもらい、概ね良好な感触だったので、ほーっと胸を撫で下したのでした。よかったよかった。

発表

■ジェフリー・ホプキンス教授の発表には特に多くの人が集まりました。(さすが) 教授の話しはいつもながら、聴衆の心を掴んでは、解き放ち、またぎゅっと引き付ける、というように話術はずば抜けて巧みです。今回のタイトルは「Buddhist goals and their Daily Relevance」というもので、内容的には日常の中でのさとりの運用をチベット仏教の伝統の中で探る、というものですが、いつものことですが、実際の発表は原稿を離れて脱線(のふり)をしていき、彼が出逢った洒脱な仏教者の実際のエピソードを自由に語り、それらの例を通して、さとりの境地をあぶり出していくというものでした。ここまでいくと、研究発表というよりはひとつの至芸ですね。


■台北滞在中、セラ僧院チェーパ学堂長にお話しを伺うことが出来て小野田は幸せな時を過ごすことが出来ましたが、その他多くのチベット人にも台北で出逢いました。聞く所によると、台湾では昨年からインド政府が亡命チベット人のために作った身分証明書(インド政府が発行する正式なパスポートとは別)で3ケ月までのビザが出るようになったとのことでした。これもダライラマ訪台の成果です。けど、いくら考えても不思議なことがあります。それは、最近多数になってきた台湾独立派の台湾人でさえ、チベット問題になると「チベットは中国の一部だ」という人が多くいるのです。どうなってるの? 中には北朝鮮まで中国の領土だという人までいて、「領土」という概念が「テリトリー」という生物学的欲望に属する根の深い煩悩だということを改めて思いました。

若者達
若い僧侶とツェリン君(右)

■台北に住む若い世代のチベット人にも会って来ました。現在佛教大学研究生のソナム君の朋友ツェリン君や、最近中華佛學研究所で学生兼研究助手のようなことをしている僧侶達、中でも興味を持ったのはジャムヤンタルゲーという名の学生で、台北近郊の警察学校の学生です。出身はアムド地方だそうですが一人で厳しい訓練に耐えながら頑張っています。地元の人間でさえ厳し過ぎて脱落者続出という中で、彼を支えているのは卒業の後、さるやんごとなき人物のボディーガードになるという夢と目標です。明らかに彼の目つきや身のこなしは武士でした。

ジャムヤンタルゲー君
ジャムヤンタルゲー君

■「財團法人達頼喇嘛西藏宗教基金會」という名のダライラマ政庁系の台北出先機関で、事務長のテンジンプンツォク・アティーシャ(すごい名前でびっくりしました)氏や副事務長をしているツェンギャム氏(彼には晩御飯まで奢ってもらいました。チベット料理、美味しかった。御馳走様!)にも色々と話しを伺いました。台湾には1959年(ダライラマ亡命)以前から住んでいて正式な居住権を持っている人や最近ビザ発給の緩和措置でダラムサーラから移って来た人を合わせて全部で600人から700人くらいのチベット人が住んでいるそうです。一方、台湾の中で増え続けている台湾人のチベット仏教信者は五十万人程もいるそうで、各地に数多くのセンターを作って活動をしているようです。小野田が訪れたダルマセンターでも常時30名ほどの信者がいて、セラ僧院のゲシェであるチャンパギャムツォ師がチベット語とチベット仏教の講義を行なっていました。宗教法人格を持つ(認可を受けて後、チベット仏教に転向した)寺院が行なう法要には何千人もの信者が集まるそうです。

アティーシャ氏とツェンギャム氏
アティーシャ氏(左)とツェンギャム氏(右)
チャンパギャムツォ師
チャンパギャムツォ師