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洛中楽話 2014年度

小さな部品たちが力をあわせ、時計を動かす姿にジーンとします。

佛教大学仏教学部 仏教学科 教授

齊藤 隆信 先生(浄土教思想)

2014年夏期(7,8,9月)掲載

齊藤先生の研究室には年代物の置き時計が鎮座している。木と真鍮、ホーローなどでつくられたドイツ製のそれは、誕生から数十年を経た今もコチコチと、小気味よい音をたてながら時を刻んでいる。

ドイツ生まれの置き時計は機械式。クォーツやソーラー電波時計とは違い、ゼンマイの復元力により動く。そのためカギを回してゼンマイを巻かなければならないが、巻くのは土曜日と決めている。「巻き上げると一週間は動くので土曜がいいんです。この時計には針を進めるためのゼンマイのほかに、チャイムと時報を鳴らすためのもの、合計三つのゼンマイがあります。これまでの一週間を振り返り、これからの予定を頭の中で整理しながらそれぞれ十数回。強く巻くとゼンマイが壊れるので、ゆっくりと回します」。

チャイムと時報は、毎時正刻の訪れを知らせる。1時ならチャイムの後に“ゴーン”と一回、12時なら十二回というように。また、15分おきに異なる旋律のチャイムを鳴らす。「内側を覗くと真鍮製の5つのハンマーと金床が見え、それらが時計と連動して音を鳴らすんです。たくさんの部品が順番に力を伝えて針を進め、小さなハンマーを動かす姿を見るたび、『頑張ってるなぁ』と心打たれますね」。

機械式時計に惹かれる理由の一つが、人間社会の縮図を感じることという。「時を告げるという目的に向かって、一つひとつの部品が自らの役割を果たしつつ、団結する。私たちの社会もそうですよね。時代を良い方向に動かそうと、一人ひとりが力と個性を発揮しながら手を取りあう。そして時計に無駄な部品が一つたりともないように、誰かがかならず他の誰かの役に立っています。これは仏教学を教える際にも重宝な喩えで、学生たちによく話していることです」。ちなみにこの置き時計は「ウエストミンスター」と呼ばれ、それはイギリスの同名寺院の鐘の音に由来する。“キンコンカンコン”という学校の始業チャイムの音といえば、お分かりいただけるだろうか。

常時動かしているのはウエストミンスターだけだが、研究室にはこのほかに置き時計と腕時計をあわせて50個ほどの時計があり、いずれも歴史を感じさせる。たとえば、エジソンが1878年のパリ万博で賞を穫ったものと同型の時計。『蛍の光』を奏でる大正期の日本・スイス合作のオルゴール時計。佛教大学の開学と同じ1913年に、精工舎が「LAUREL」ブランドとして発表した日本初の腕時計。すべて完動品でかなり値が張りそうだが、意外とそうでもない。「エジソンのは1万円、オルゴール時計は3千円ほどで、買うなら高くても2万円ぐらいまでと決めています」。

大正から戦中にかけての国産腕時計。
中央が日本初の腕時計である精工舎の「LAUREL(ローレル)」

「ウエストミンスター」と、その機械。
下に見えるのがチャイムと時報を鳴らす真鍮製のハンマーと金床

旅先などで時間があればガラクタ屋巡りを楽しんでいるが、そういった店には直せば動くのにジャンク(故障品)扱いの古時計が潜んでいるという。「ちょっと揺すると動くかどうか分かります。ウエストミンスターも、最初2万5千円と吹っかけられたのをジャンクだからと8千円まで値切りました。馴染みの時計屋のご主人に『きれいに直せば5万円ぐらいの価値がある』といわれ、興奮したのをよく憶えています。修理費は1万円もしませんでした(笑い)」。

簡単に直せるものは自分で直す。「動かない時計のほとんどは、潤滑油にホコリがたまって機械が止まっているだけで、中を掃除してやれば大体は生き返ります」。ただ動かすだけでなく、精度にもある程度こだわる。「許容範囲は1日の誤差が2分まで。大幅に狂いそうな時計はいくら探していたものでも手を出しません」。もっとも2分といえど、誤差そのものがないに等しい時計が当たり前の今では大きな狂いにちがいない。「でもよく考えてみると、普通の生活で分刻みの時間に追われることなんてないですよね。機械式時計の魅力は、私たちが忘れかけていた大らかな暮らしの心地よさを、改めて気づかせてくれるところにもあると思います」。

いつか手に入れたいと思っているのは、気温の変化をエネルギーとして動く時計。スイス製の変わり種で、まだ実物を見たことがない。「ネットオークションで時おり見かけますが、高くてとても手を出せないのが悩みです。これは余談ですが、自宅にも時計を30個ほど持っていて、家族から『もういい加減にして』といわれていて・・・。こちらも悩みのタネなんですよ(笑い)」。

Profile

Profile

齊藤 隆信(さいとう・たかのぶ)

1966年新潟県長岡市生まれ。佛教大学文学研究科博士課程満期退学。知恩院浄土宗学研究所助手などを経て現職。博士(文学)。著書に『漢語仏典における偈の研究』(法藏館)など。