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洛中楽話 2012年度

一人では成し得ないことを成し遂げられるのが一番の魅力です。

佛教大学社会学部 現代社会学科准教授

大谷 栄一 先生(宗教社会学)

2013年冬期(1,2,3月)掲載

大谷先生のこだわりは、「協同=コラボレーション(以下コラボ)」。最近、音楽の世界などでよく耳にする言葉だが、先生の場合は共同研究を行なうこと。多くの人と力をあわせて何かに取り組むコラボには、いろいろな面白みがあるようだ。

 先生のコラボは、およそつぎのように進められる。メンバーがそれぞれの研究内容を研究会に持ちより、互いにコメントしあうことで内容の質を高める。これを繰り返すことで育んだ成果を学会で発表し、最終的に報告書や論文集にまとめる。通常3、4年の時間をかけてゴールを目指す。

 自分の専門外の研究者とのコラボでは、思いがけない視点を得ることがあるという。ここ数年、力を入れているのが近代仏教に関する共同研究。19世紀以降、日本を含むアジア諸地域で形成され、欧米でも受容された仏教のあり方を多彩な角度から調べるというもの。先生は主に日本国内の動きについて、専門である宗教社会学の観点からアプローチしているが、時として研究が停滞してしまうことがある。「そんな時、専門外の方からのコメントが効くことがあるんです。日本仏教の海外交流史を専門としている方に、『外国との関係から捉え直してみては』と助言され、それによって突破口が見つかるというように」。

 中国や韓国だけでなく、欧米の研究者との協同にも積極的だ。「内容はもちろん、彼らの発想から刺激を受けることが多々あります。たとえば、僧侶の『肉食妻帯』をテーマに本を書いた人がいたり、僧侶が普段何をしているのかについて本を書き上げた研究者もいるんです。私たちが当たり前と考えたり、重要な研究対象にならないと思っていることに着目し、ちゃんと成果をあげる欧米の研究者の発想と行動力には驚かせられますね」。

 現在進めているのは、明治時代に日本や海外で発行された日本語の仏教雑誌の目次をデータベース化するためのコラボ。今後の近代仏教研究に、広く役立てようというプロジェクトだ。「お目当ての雑誌は各地の研究機関に散らばっていたり、その存在は知っていてもどこにあるかが分からないため、900点を超える現物を一人でたずね当てるのは至難の業です。しかし、共同研究でなら手分けして探すことができます」。そうして発掘した雑誌を一つひとつ読み込み、特に重要と位置づけたものの目次を手作業でデータベース化するわけだが、ここでもコラボの力がものをいう。

海外の学会などに参加することもあり、取材の2週間後にはアメリカ・南カリフォルニア大学で開かれる国際会議での発表を控えていた。「発表は英語で行ないますが、欧米の日本宗教研究者とは日本語で話すことが多いですね。みんな日本語が達者で、私より上手な人もいるほどなんです」

 メンバーは20名ほどで、年齢層も20~50歳代と幅広い。その中にはアメリカ人研究者や、神道史など仏教以外の研究者もいる。先生は代表を務めていて、学会で発表者に声をかけたり、論文を読んで気になった人にコンタクトをとってメンバーを集めた。「有望選手に目をつけてチームに誘い込む、スカウトみたいなものですね」。

 普段はメールでやりとりし、春と夏に研究会を開き、そこで得た成果を年に一度の日本宗教学会の学術大会で報告しているが、合宿も重要なイベントという。「研究会を兼ねた1泊2日の旅行です。今年(2012年)は金沢で合宿しましたが、禅の研究で名高い鈴木大拙の記念館を訪ねたり、美味しい郷土料理を囲んでいるうちに、それぞれが率直にものを言いあえる雰囲気がジワッとできてくるんです」。メンバー同士といえども、研究者相手にコメントするのはなかなか難しい。しかし、人間関係が深まることで踏み込んだ意見交換が可能となる。そして、それが互いの研究の質を向上させ、プロジェクトをさらなる高みに誘う。

 ワークショップや共同調査など、学生の教育にもコラボの要素を取り入れている先生にあらためてその魅力を訊いてみた。「やはり、一人では成し得ないことを成し遂げられることですね。それが一番だと思います。代表になると煩雑な事務作業が増えますが、そのおかげで『段取力』もグンとアップしました(笑い)」。

Profile

Profile

大谷 栄一(おおたに・えいいち)

1968年東京生まれ。東洋大学大学院社会学研究科社会学専攻博士後期課程修了。財団法人国際宗教研究所研究員、南山宗教文化研究所研究員を経て、2009年4月より現職。