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洛中楽話 2012年度

これからも、自由に生きることにこだわっていきたいと思っています。

佛教大学社会福祉学部 社会福祉学科教授

村岡 潔 先生(医学概論)

2012年秋期(10,11,12月)掲載

人と互いに理解しあうためにも、遠慮することなく、我慢することなく、「言いたいことは、ちゃんと言いたい」。
最近、そんな思いがいっそう強くなってきたという村岡先生。そのきっかけは、60歳で初めて体験した海外生活にあったという。

 2009年に7ヶ月ほど、ローマに暮らした。 主な目的は、イタリア語で書かれた医学関連の専門書を読みこなす力を磨くためだったが、それ以上に得たものがあったという。 「思ったことは言う、思ったことは言ってもらうという、人との付きあい方が気に入りました。 イタリア人はとてもフランクです。 その国民性の根幹となっているのが、どうやら人間関係みたいなんです」。

 日本の人間関係は、上下関係によって決まることが多い。 そして、目上の人に対しては敬語を使うことが常識であり、 むやみに話しかけないことが美徳とされる。 一方、イタリアのそれは水平的で、極端にいえば長老も先生も友人もみな、自分と同じ線上にいる。 初対面では互いに敬称を使うが、3回ぐらい会うと距離がぐっと縮まり、 年齢差などに関係なくファーストネームで呼びあうようになる。 そして思ったことは言い、 思ったことは言ってもらう関係になるという。 それは、言いたいことを言いあうことで互いの違いを理解し、互いを尊重しあう。 そんな、寛容な社会に繋がる間柄といえる。

 通っていた語学学校でも同様の人間関係が結ばれ、ある時、あることをふと思いついた。 「自分のゼミでもそんな間柄がつくれないか、と。 最近の学生は恥ずかしがり屋なのか、なかなか自分の意見を言ってくれません。 相手が何か言ってくれないと、こちらも何も言えない。 では、私も含めて全員がファーストネームで呼びあう『仲間』になれば、 言いたいことを気軽に言いあえるようになるのではと考えたんです。 ある意味これは冒険です。 もっとも、親御さんでもない私が学生を本名のファーストネームでは呼びにくいので、 遊びの意味も込めて、『アンジェラ』とか『チャーリー』というニックネームで呼ぶようにしました」。

ゼミ学生には、パウロ・マッツァリーノ『反社会学講座』を 読んでその「人間いいかげん史観」を学んでもらい、 彼らとのメールも英語が基本という村岡先生。
「何も英語かぶれなわけではありません。 学生諸君がより広い世界へ羽ばたくには、 どうしても語学の力が必要と考えているからです」。

 最初はみんな戸惑っていたが、そのうち面白がって互いにニックネームでも呼びあうようになった。 そして先生のこともニックネームで呼びはじめ、 メールでのやりとりでは、友だちに話しかけるように接してくれるようになったという。 ちなみに、先生のニッックネームは「ドン・キショッテ(Don Chisciotte)」。 「私の名前は『KIYOSHI』ですが、イタリア語では『K』や『Y』や『SH』などを使わないので、 ちゃんと『キヨシ』と呼んでもらえなかったんです。また、レバノンから来た学生には『シオキ』と呼ばれる始末で(笑い)。 まいったなぁと思い、何かいい呼び方はないかと辞書をめくっていたらこの名前を見つけたんです」。 ドン・キショッテはスペイン生まれの冒険譚の主人公、「ドン・キホーテ」のイタリア語表記だそうだ。

 ローマ生活のなかで、その良さを再確認したものにスローライフがある。 ヨーロッパの多くの国では、普通の人たちが長期休暇を楽しむ。 シーズンになると街の商店はもちろん、国会図書館までがゆっくり休む。 当然、日本にそのような文化はない。 理由はいろいろだろうが、自分が休むと他の人に迷惑がかかると思い込む、 過度の真面目さがいちばんの理由だろう。 逆にイタリアの人々は、自分が休んでも誰かが代わりを勤めてくれるから大丈夫と、 至って気楽に考えているようだ。現在のヨーロッパの経済情勢などからすると、それは必ずしも良いこととは限らない。 しかし、世界屈指の経済大国になったかわりに、過労死や自殺が多い日本の現実は、あまりにも辛い。

 「これは私も含めての話しですが、日本人はもっと気楽になったほうがいいと思うんです。 人間らしく生きるためにも、私たちはこれまでの考え方から、 もっと自由に、もっといい加減になってもいいんじゃないでしょうか。 医学的にも、気楽に生きたほうが健康にいいですからね(笑い)」。

Profile

Profile

村岡 潔(むらおか・きよし)

1949年群馬県生まれ。 日本医科大学医学部卒業。 大阪大学大学院(医学概論・中川米造教授)などを経てその縁で佛教大学へ赴任。内科医でもある。 イタリアといえば、オペラやバレエについての関心も高い。