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洛中楽話 2012年度

“あまのじゃく”な私のお気に入りは、日々の研究に欠かせない仕事道具です。

佛教大学文学部 中国学科教授

中原 健二 先生(中国古典文学)

2012年春期(4,5,6月)掲載

「自分はこだわりがない」という中原先生が、唯一「こだわりといえそう」というのがBtron仕様のパソコンOS(現在は「超漢字」)を使っていること。 一般にはほとんど知られていないOSだが、専門研究に欠かせない長所を持っているのだそうだ。

話しは1990年代初頭にまで遡る。その頃、論文などの執筆を手書きからワープロに切り替えた。しかし、使える漢字は二千個ほどしかなかった。専門は唐・宋代の中国古典文学。当然漢字を多く使い、それも中国で用いられる字や旧字体が必要だった。「そこで仕方なく、ワープロにない文字は自分で"偏"と"旁"を合成して作字していたのですが、まったく足りませんでした」。その後、友人の勧めでパソコンでワープロソフトを使うようになり、作字できる量もかなり増えた。「それでも、足りませんでしたし、何より自分で字を作るのがしんどくなりました」。

Btronを知ったのは90年代の半ば。パソコン雑誌に掲載された「10万以上の字を利用できる」という旨の記事を見て、ほどなくして購入した。最初はあまり満足できるものではなかったが、バージョンアップを重ねて「超漢字」という名称になってから、使用に十分堪え得るようになったという。魅力はなんといっても使える漢字が多く、しかも入力が容易なこと。「他のOSのように入力システムを切り替えることなく、日本語と中国語を同時に打つことができるんです。文字検索もとても簡単です」。ある漢字の旧字体を知りたければ、その漢字を画面上のボックスに放り込むだけで事足りる。また、うろ覚えの漢字でも、たとえば「山」 という偏と「おん」 という読み方をそれぞれ放り込めば、たちまち関連する漢字が表示される。「邉」「邊」「辺」といった異体字も豊富に探せる。

気に入っているのは漢字の多さだけではない。Btronの特長は便利さにもあるという。「インターネットのホームページに、文字をクリックしたら他のページにジャンプするハイパーテキストがありますよね。それを文章ファイルにも簡単に応用できるんですよ」。たとえば、作成中の文章ファイルに資料となる他の文章ファイルを埋め込んでおけば、必要に応じてすぐに開くことができ、論文や原稿執筆の際にすこぶる重宝という。

ところで、世の中で使われているOSはほとんどウィンドウズかマッキントッシュ。よってBtronのユーザーはかなりの少数派という。「そもそも私は、たいへん" あまのじゃく"な人間ですから」。しかし時流もあってか、現在ではウィンドウズ上のアプリケーションとして使用できるソフトが発売されており、先生も他とのデータのやりとりのために使っている。

「超漢字」には、先生が考案した中国語辞書機能が搭載されている。その使い方について専門誌に寄稿したことがあり、「理系の雑誌に文章を書くのはそれが最初で最後になると思います」。

Btronの開発コンセプトのひとつに、「違いは違いで認めよう」 という精神があるという。同じ漢字でも、中国と韓国と日本とでは字体が少しずつ異なる。そのためそれぞれの国で、コンピュータで表わす漢字に独自のコードを割り当てている。それは不便ということで、字体の差異を無視してひとつの文字とするコードもあるが、しかしそれでは、それぞれの国の人間にとって違和感のある漢字になってしまう。「ならば、各国・各地域で使われているすべての漢字をそのまま受け入れ、すべてにコードを割り当てるというのが開発者の思いだったようです。その結果、膨大な数の漢字になったわけです。もっとも、漢字の違いはそれぞれの国の文化の違いなのですから、違いを尊重するのは当然のことなのかもしれません」。

Btronへのこだわりには、こんな理由もある。「私は東京の池上というところの生まれですが、Btronをつくっている会社が以前、その近所にあったんです。そんなよしみもありましてね。願わくは、私が元気なうちに次のバージョンを出していただきたいですね」。

Profile

Profile

中原 健二(なかはら・けんじ)

京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学。 小樽商科大学、高知大学を経て佛教大学へ赴任。 趣味はスポーツで、なかでもサッカーはメキシコオリンピック以来のファン。