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洛中楽話 2008年度

安藤 佳香先生
おもちゃに魅せられて

佛教大学文学部 人文学科教授

安藤 佳香 先生

2008年秋期(10,11,12月)掲載

閑寂な住宅街の住まいをお訪ねし、案内された応接間では、机の上のテディーベア、セルロイドのキューピーたちに、ブリキのおもちゃなどの出迎えを受けた。「古いおもちゃってね、仏教美術の研究と私の中ではリンクしていると思いますよ」と机上に目を細めながら、仏像がインド、中国、朝鮮半島…と伝播するにつれ、それぞれ表現が異なってくるように、おもちゃもまたお国によって変容する。「この受容と変容という観点こそが私の研究の最大のキーワードなんですよ」と。そんな先生のこだわりとご専門の関係についてお話をうかがった。

「私って小さいころから仏像が大好きでして。小学生のころからよく両親に連れられ、お寺めぐりなんかを楽しんでいたんですよ。あの古い、厳かな独特のお寺のムードに、子ども心にもひかれたんですね。それに仏像を見ていると、なぜか不思議に心が落ち着いたんですよ」と仏像との出会いを語る。小さいころの女の子なら誰もが興味を持つ人形とか、ままごと遊びなどには全く関心がなく、「それより道具屋さんのウインドーをのぞいている方が面白かったですね」と苦笑する。中学生のころには早くも全国津々浦々の仏像、特に一木彫や磨崖仏を訪ね回った。そして、ひたすらお小遣いをため、骨董屋をのぞいて「この仏さまも私と一緒にいたいと言っている」と店主に頼みこんでは、小さな仏像や石仏を値切って入手していたという。

そんな仏像をこよなく愛する安藤先生が、長じて仏教美術の専門家として国内外で活躍される傍ら、ときに「胸がキュンとなる」こだわりの世界をもっている。それは、幼いころには興味を持たなかったおもちゃ、それも1940年代以前の古いおもちゃの世界である。「かわいらしい」とか「きれい」などの表現とはほど遠く、むしろ机上のテディーベアやセルロイドなどの人形は、どれもが古めかしく何かもが寂しげに見える。使われ続け、ボロボロになったぬいぐるみも少なくない。作られた国はドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、日本などさまざまで、いずれも1900年代初頭から半ばの制作という。「研究の合間に主に海外で集めてきたものですが、いずれも個性的で、つくられた国の美意識が出ていますね。同じクマでもずいぶん表現が違います。これは当然、仏像にもいえることで、仏教を受け入れた民族にとって、礼拝対象として受容しやすい表現に仏像を変化させてきたからなんですね」と安藤先生。ちなみに、動物などのキャラクターが、現代的な目で見てかわいくなるのは1950年代以降という。

安藤 佳香 先生と人形

「セルロイドのおもちゃは、その材質ゆえ、とても壊れやすく、はかなく切ないですが、そこにたまらなく魅かれます。また、ぬいぐるみなどは毛がすり切れ、補修してまで使われてきた姿を見ると、想像力も手伝って本当に愛おしくなってきますね」と、あらためて専門とは異次元の魅力を語る。研究の方は近年、インドからシルクロードの西域にも行動範囲が広がり、仏像だけでなく絵画、工芸、建築…と各分野におよぶ。その先生の夢は「美術史家である自分の目を通して、仏教美術とリンクさせたおもちゃの美術史を書いてみたい」。そう話す先生の目は、童のようにキラキラ輝いていた。

Profile

Profile

佛教大学文学部 人文学科教授
安藤 佳香(あんどう よしか)

大阪府生まれ。
奈良女子大学文学部史学科卒業。
京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。
佛教大学大学院博士課程文学研究科修了。
中京女子大学、京都造形芸術大学を経て2006年度から現職。
文学博士。専門は日本・東洋美術史(仏教美術)。
著書に『佛教荘厳の研究-グプタ式唐草の東伝-』(中央公論美術出版)など。