大学紹介

2017年6月

真なるものこそ真の力とおもいます

『西田幾多郎書簡』

解説 / 教育学部教授 川村 覚昭

 人間がバラ色の人生を生涯に亘って貫くことは難しい。それは、多様な人間関係の中で思いもよらない出来事に出会い苦しみ悩むからです。常に不安定な生を生きているのが人間の実態です。
 西田幾多郎は、日本を代表する独創的な哲学者として今日世界的な評価を受けていますが、彼の75年の生涯は「深い暗い人生」を噛みしめるものでした。彼は、愛妻や愛子の度重なる死に見舞われ、人間であるが故の堪え難い苦しみに打ちひしがれるのでした。
 「かくてのみ生くべきものかこれの世に五年(いつとせ)こなた安き日もなし」
 しかし、西田にとってこうした人生の悲哀は無意味ではない。人生の悲哀こそが人間の独善を破り、今まで見えなかった「真なるもの」を掴む動機となるのです。
 冒頭の言葉は愛弟子の下村寅太郎宛の手紙に記されています。文面から若き下村の悩みに対して研究の勇気を与えようとしていることが分ります。そこには西田自身の経験が投影されており説得力があります。なぜなら、「真なるもの」に目覚めた人は、それが人生を積極的に生き抜く「真の力」となるからです。それ故、西田は下村に言います、
 「我々は静に落着いて日本に立派な思想を構成する外にないとおもひます」

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佛教大学宗教教育センター
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